表題番号:2003A-938
日付:2005/03/24
研究課題スポーツマネジメント理論の構築に向けた質的研究法の検討
研究者所属(当時) | 資格 | 氏名 | |
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(代表者) | スポーツ科学部 | 専任講師 | 作野 誠一 |
- 研究成果概要
- 近年、経営学や組織論の分野において調査方法論に関心を寄せる著作が増えつつある。しかしこれまでスポーツ経営学において、ミクロレベルの研究方法(調査方法)を直接取り上げた研究はみられない。本研究の目的は、スポーツ経営学における調査方法ないし方法技術の問題点と課題について、とくに現在注目を集めている質的調査研究に着目して検討することであった。そのためのアプローチとして、日本体育・スポーツ学会の学会誌の第1巻(1984)から第18巻(2003)に掲載された論文(原著・研究資料)における研究・調査方法の動向について詳細に検討したところ、全体の7割近くを量的研究が占めていること、質的研究は全体の2割にも満たないが近年は増加傾向にあることが明らかになった。第16~18巻において質的研究としてカテゴライズされた4編は、総合型地域スポーツクラブ、合同運動部活動、PFIをテーマとするものであり、いずれも複数事例を取り上げた面接(インタビュー)ベースの研究であった。ケース選択の手続きをみると、あらかじめ意味づけされたタイプの代表ケース(決定的な事例)や新奇性の高いケース(新事実の事例が選ばれているけことがわかる。またいずれも十分な知見の蓄積がないテーマであり、探索的な事例研究が適合的だったものと思われる。現在のスポーツ経営の特徴の一つは、スポーツ経営事象の多様化に伴う研究領域の拡大とそれと連動した多領域化である。学社融合の延長線上にある学校施設の地域共同利用、連携協力を旗印とする総合型クラブの設立、合同部活動、外部指導者制度の導入等々、複数の領域を跨ぐスポーツ経営事象が次々と現れる現在の状況では、新たなスポーツのしくみや組織、経営体に関する知識や情報が必然的に要求されることになる。一方で課題も指摘される。まず第一に調査手続きについてである。サーベイに代表される量的調査の手続きが、データ収集・分析を通じて比較的厳密かつ詳細であるのに対し、事例研究の場合、厳密さ(手続き明示の点)において曖昧な点が多い。たとえば、面接方法一つをとっても、半構造化インタビュー、ナラティブ(物語/語り)インタビュー、グループインタビューなど多岐にわたり、それぞれのねらいや方法も大きく異なっている。調査方法の妥当性が結果の妥当性をも担保するなら、今後こうした点への配慮が必要になると考える。第二の課題は、フィールドワークの必要性である。当事者にとっての組織の意味を理解することが、経営の現実(リアルな姿)を知るうえで有用かつ重要であるという認識が広まりつつあるが、スポーツ経営においても各種の組織変革や新たな組織創造が求められるなかで、行為の起源として個々のメンバーが組織に抱いている意味や目的への着目は、今後の研究を展望するうえで重要な示唆を与えるものと思われる。