表題番号:2003A-893 日付:2004/03/26
研究課題血流診断用リアルタイム分光画像分析装置の開発
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学部 助手 中村 厚
研究成果概要
短時間で面情報と波長情報を同時に取得できる血流診断用リアルタイム分光画像装置の試作機の開発をおこなった。この装置は透過型グレーティングと高速度カメラを組み合わせることで、380~950nmという可視領域全般から、近赤外領域にいたるまでの波長領域に関して測定可能である。また、10mm×10mm程度の面積の測定に関しては、波長分解能5nm、空間分解能0.25mmの精度で、15秒以内で計測できる。この測定面の大きさは集光用のカメラレンズを交換することで、可変である。また、上記のような静的測定だけでなく、ある面に対する時間分解測定も可能である。本装置による経皮反射測定を基にして、表在性毛細血管における血流量、酸化と還元ヘモグロビン相対量の定量化をおこなった。その方法として、反射率データを吸収スペクトルに変換し、画像化したい領域内の吸収スペクトル全てに対して主成分分析をおこなった。このとき重要な点は酸化、還元ヘモグロビンの吸収スペクトルの違いに着目し、特徴的な波長領域に関して解析をおこない、主成分分析によって得られるローディングベクトル(固有ベクトル)と吸収スペクトルを比較し、その類似性からその解析結果がいかなる成分による変化を表しているかを同定していることである。これにより、正常な皮膚に関しては、波長域選択にほぼ関わりなく、第二主成分に対応する固有ベクトルが総ヘモグロビンスペクトルに、第三主成分のものが酸化ヘモグロビンと還元ヘモグロビンの差スペクトルに対応していた。従って、第二主成分得点が血流量を、第三主成分得点が酸化/還元ヘモグロビンの相対量を反映している。次に、範囲内にホクロを含む場合、500-600nmの波長域選択が好ましく、このとき第一主成分得点にメラニン濃度、第二主成分にヘモグロビン総量が反映されていた。さらに、上腕部に駆血帯を施し、その駆血、開放による血流量の変化に関して時間分解測定をおこなった。このとき、第二主成分に対する固有ベクトルが酸化と還元ヘモグロビンの差スペクトルに対応し、第二主成分得点の時間変化が酸化/還元ヘモグロビン相対量の経時変化を表すことを示している。健常者と糖尿病患者の鬱血状態から通常の状態に戻る回復時間を比較すると、糖尿病患者の方が長いことを見出した。これらより、この装置は糖尿病性末梢血管閉塞部位の診断、また将来的には各種皮膚腫瘍診断に適用できると考えられる。今後は本装置を病院向けに改良したものを用いて臨床試験を行っていく。対象群を増やすことで、糖尿病患者の酸化/還元ヘモグロビン相対量の回復時間の遅れの原因が判明すると考えられる。