表題番号:2003A-872 日付:2004/10/20
研究課題粘着体の剥離におけるパターン形成のダイナミクス
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学部 専任講師 山崎 義弘
研究成果概要
粘弾性を有する粘着物質は、変形を加えた時間や温度に応じて多様な力学的性質を示し、
粘着物質の運動を特徴付ける際には、運動が基板(壁)との接着および剥離を繰り返すことによって行われために、
粘着物質および取り巻く環境を含むシステム全体の硬さや、変形に対する粘着物質の力学的応答、
そして粘着物質と基板との相互作用が運動に対して重要な影響を及ぼすことに注意すべきである。
そこで我々は、粘着物質の力学物性だけでなく、環境条件、運動様式(剥離の方法など)を含めたシステム全体の動的挙動として問題を構成し、粘着運動をパターン形成の物理として理解することを試みている。

本研究では、粘着物質が粘性と弾性とを共存し得るような変形の時間領域で、テープ剥離による粘着物質の変形および
変形した粘着物質によって形成されるパターンに着目し、実験を行ってきた。
粘着テープを水平に置かれた基板に貼り、システムの硬さを制御するため、バネと粘着テープの一端を連結し、
バネを基板と垂直方向に引き上げ、テープの剥離を行った。剥離の際、剥離速度とバネ定数を
コントロールパラメータにして、基板からテープをはがす際に必要な荷重を測定した。
また剥離後、テープに残された粘着物質の形態を観察した。我々の実験で用いた粘着テープには天然ゴム系の架橋粘着物質が使われている。 

剥離によってテープと基板との間隔が広がるため、粘着物質は伸長し、変形する。ここで注目すべき点は、
粘着物質は変形後もその変形によってできた形態を保つことと、界面剥離が1次元的な剥離先端で行われていることである。
従って、剥離後の粘着テープには1次元空間で行われたテープ剥離の時間的推移が、変形した粘着物質がつくる形態の時空間パターンとして
表現されていることになる。つまり、各時刻、各場所でどのような剥離が行われたかを剥離後の粘着テープを観察すれば理解できるのである。
従って、テープの剥離現象をパターン形成の物理として理解することが可能になるのである。

以上のパターンに着目し、剥離過程の動的挙動が一目でわかるようにまとめたもの動的相図を作成した。
また、この相図は定常的な剥離が実現するために必要な時間とシステム固有の緩和時間に関する議論により、定性的には理解できることを示した。