表題番号:2003A-869 日付:2004/02/19
研究課題環境負荷を考慮した光学活性環状化合物合成法の開発
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学部 助教授 柴田 高範
研究成果概要
「環境にやさしい化学 (Green Chemistry)」を達成する上で、反応媒体として基質に対し大量に用いられる有機溶媒が大きな問題となっている。一方不斉触媒反応では、立体選択性(不斉収率)、反応効率(TOF)、触媒活性(TON)などの点で実用性の高い反応系を構築するために、溶媒選択は極めて重要なファクターである。本研究は、新たな反応媒体の探索という従来のアプローチではなく、反応媒体を必要としない無溶媒型触媒システムの開発、特に不斉触媒系に焦点をあて、研究を行った。
 その結果報告者は、Pauson-Khand型反応で無溶媒型不斉触媒反応を見いだした。Pauson-Khand型反応は、一酸化炭素挿入を伴うアルケン-アルキンカップリング反応であり、シクロペンテノン骨格を構築する有用な反応のひとつである。従来の不斉Pauson-Khand型反応は、有機溶媒を用い、一酸化炭素源としてCOガスを用いており、報告者も、同条件下、キラルイリジウム錯体により、高エナンチオ選択的な反応を既に発表している。そこで、遷移金属錯体によるカルボニル化合物の脱カルボニル化反応に着目し、アルデヒドのカルボニル部位を一酸化炭素源として活用する触媒系を検討した。その結果、無溶媒条件下、a,b-不飽和アルデヒドであるシンナムアルデヒドを用い、光学活性ロジウム触媒を用いることで、高エナンチオ選択的な不斉カルボニル化反応が進行し、高い鏡像体過剰率のシクロペンテノン誘導体が得られた。
 従来、遷移金属錯体を用いる反応では、触媒サイクルを効率的に回すために、反応溶媒の使用が必要とされてきた。本研究により、反応系の巧みな設計が無溶媒系の構築を可能にすることがわかったことから、遷移金属触媒を用いる他の有用な合成反応における無溶媒系の設計を目指す。