表題番号:2003A-856 日付:2004/03/26
研究課題非線形退化型偏微分方程式の再正規化エントロピー解の研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 教育学部 助手 高木 悟
研究成果概要
非線形退化型偏微分方程式の一例である保存則の再正規化エントロピー解について研究した.
保存則の研究はかなり古くから行われているが,1971年にKruzkovによりエントロピー条件を満たす弱解,エントロピー解の一意性が証明された.このとき,時間初期値とエントロピー解は有界でなければならなかったが,その後,2000年にBenilanらにより,流束関数が局所リプシッツ連続で,かつ,ルベーク可積分関数の外力と時間初期値(有界とは限らない)をもつ保存則の再正規化エントロピー解の概念が確立され,その存在性と一意性が証明された.この場合,解は一般に非有界となり,流束関数に増大条件を課さないと,流束関数は局所積分できず,弱解すら存在しなくなる.そのためにDiPernaとP.-L.Lionsによって導入された再正規化理論を保存則に適用することにより,エントロピー解を再正規化した再正規化エントロピー解の概念を作り,この問題を克服した.この再正規化理論は保存則だけでなく,退化楕円型方程式などで一般に非有界な解を扱うときにとても有益な概念である.
一方,2003年にPortilheiroにより保存則における消散解とエントロピー解の同値性が証明された.消散解の概念はEvansにより導入され,その解の形から化学反応などを記述する収縮緩和系において解析しやすい概念である.しかし保存則へこの概念を取り入れる場合,流束関数が大域リプシッツ連続でないと適用できないため,汎用性が狭まる点が難点である.そこで,より応用しやすいよう流束関数を局所リプシッツ連続にまで拡張した場合の消散解,再正規化消散解の概念を小林和夫教授との共同研究で新たに構築した.具体的には,局所リプシッツ連続な流束関数をもち,ルベーク可積分関数の外力と時間初期値をもつ保存則の初期値問題について,消散解の概念を自然に拡張した再正規化消散解の理論を作り,再正規化エントロピー解との同値性を証明した.また,この理論の応用例として,収縮緩和系における再正規化消散解の存在性を証明した.本研究成果の発表については以下のとおりである.