表題番号:2003A-846 日付:2004/04/13
研究課題為替市場ティックデータの価格軸粗視化によるフラクタル分析の有効性の検証
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 教育学部 専任講師 熊谷 善彰
研究成果概要
円ドル為替レートの提示価格を1995年1月から2000年11月にかけての5年11ヶ月にわたって分析した。データの時刻は分単位で記録されているため、同一分内に複数のデータが存在し、これらについては提示された時間順序しか判明しない。1分あるいはそれ以上の時間間隔で等間隔にサンプリングすると情報が大きく失われるため、時間軸ではなく価格軸を粗視化する方法を採用し、一種のフラクタル次元である折畳次元を測定する。スケーリング範囲によって測定される次元は異なるが、7銭から17銭という市場の微視的な構造を表現する範囲を用いる。日々の市場の状態を観察するため、1日24時間のデータから日次のフラクタル次元を測定したところ、容量次元に換算した場合に次元がランダムウォークに当たる1.5を上回る反持続的な傾向が一貫して見られる。しかし、次元は市場の状態を反映して日々変動し、通貨当局による市場介入の行われた日には次元が低下する、つまり反持続的な傾向が弱まる傾向が見られる。ただし、介入により市場の状態が変化したのか、市場の状態を見て介入を決定したことを意味するのかという因果関係の方向は不明である。また、クリスマス、イースターの休暇など取引が非常に少ない時期には次元が他期間と比べて有意に低い。より大きな時間変動を観察すると、1998年8月から10月などの相場が激変した際に反持続的傾向が弱まり、ランダムウォークに近い性質を示す。2000年4月に反持続的傾向が特にアスク提示価格において強くなり、2000年8月から9月には、逆に反持続的傾向が弱まるものの、2000年10月に再びこの傾向が強くなっている。さらに、1日を米国中央時間(CMT)で前日17:00-1:00のアジア取引時間帯、欧州取引時間帯(CMT1:00-9:00)、アメリカ取引時間帯(CMT9:00-17:00)と3期間に等分して分析すると、中心となる市場によって特徴が見られる。とくに、同じ日について欧州時間帯における次元をその前後のアジア、アメリカの時間帯と比較した場合、全期間を通して反持続的傾向が弱い。