表題番号:2003A-843 日付:2004/05/07
研究課題1930年代ベルリンの公衆衛生ディスクールと都市型メディア環境の誕生
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 教育学部 教授 原 克
研究成果概要
 本研究の目的は、都市技術・社会衛生学という視点からバイオ権力の発動の場としての都市空間ベルリンの諸相を研究すること。それとの関連で、ベルリンと他の都市との間に形成された都市技術をめぐる情報ネットワークをディスクール分析することであった。墓地・埋葬形式・公衆衛生というテーマと隣接した都市現象のフィールドに視点を拡大し、言説・表象の近代化プロセスをより体系的に検討することをめざすため、具体的には、第一に、ベルリンにおける公衆衛生問題の典型として、<死体公示所><食肉加工所><電気冷蔵庫><テレビ放送>といった都市現象を選び、1840年から1945年までの期間において、それぞれ(a) 数値的、空間的変容、(b) 法的、行政的規制、(c) 文化的慣習、(d) 宗教的、経済的付加価値、(e) メディアによる伝達のされ方、(f)そうした情報が、同時代の生命観・衛生観をめぐるディスクールへのフィードバックのされ方を体系的に追った。そうすることで、数値的な具体的データが、ついには理念的あるいは文化的無意識のレベルに吸引されていくダイナミズムをさぐるのを目的とした。
 とりわけ初年度の本年は<テレビ放送>を中心的に扱った。その結果、わけても近代的な公衆衛生概念が成立してくる契機として、衛生問題をもっぱら個人レベルで取り扱う、いわば近代初期の個人的衛生概念との比較検討が重要であることが判明してきた。その具体的課題は<ナチス時代の速度をめぐる身体表象>である。健康、病気、死の到来の確定といった従来の死をめぐる個人的な問題群が、公衆衛生のタームを経由して国家主義に吸収されてゆく過程を浮かび上がらせることができた。
 さらに、こうした衛生概念の変容が、狭義の専門的言説として存在していたばかりでなく、同時代のさまざまな言説と連動しあって、価値のネットワークとして機能している様子を、教養市民層をターゲットにした「百科事典」あるいは「小説」といった各種出版物を広範に検索してディスクール分析を行った。以上の結果の一端を、論文・エッセイを通じて広く一般読者にも発表還元した。