表題番号:2003A-824 日付:2004/03/26
研究課題Thornton Wilder の戯曲におけるアメリカニズムに関する研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学部 教授 水谷 八也
研究成果概要
 当研究の目的はThornton Wilderの戯曲に見られる「アメリカ」の表象をGertrude Steinとの関係から、さらに20世紀のアメリカの劇作家に見られるのそれとを比較することにより、Wilderの「アメリカ」認識の独自性、特異性を明らかにすることであった。Wilderの代表的な多幕劇を創作する一つのきっかけとなったのは、1934年のSteinとの出会いである。Wilderの"Our Town"、また後の"The Matchmaker"の元となる"The Merchant of Yonkers"をほぼ同時に書き進めていたのは1937年であるが、この年の7月末から8月にかけて、WilderはフランスにいるSteinを訪れ、Alice B. Toklasとともに過ごす。この前後の書簡、またこの時期にSteinが執筆中であった"The Geographical History of America or the Relation of Human Nature to the Human Mind"の中に見られるこの時期のWilderとの会談と思われる描写などから、Steinが"Our Town"の何もない舞台に影響を与えたのはほぼ間違いないことである。しかも当時としては特異な表現形式には、「アメリカ」という地理的・歴史的認識と「個人」という感覚が絡み合っており、それは二人がその後も二人が書簡でやり取りして議論するHuman Nature, Human Mindという感覚と関連していることからも、Steinの存在の大きさが確認できる。またその「個」の認識の根底には教派を超えた宗教的感覚、あるいは”the sublime”とでも呼べる感覚が二人に共通してあることも確認できた。Wilderの中には、他のアメリカの劇作家には見られない神秘主義、transcendentalismの水脈が流れているのではないかという新たなテーマも見えてきたのである。