表題番号:2003A-821 日付:2004/03/26
研究課題銀行取締役の義務および責任のあり方
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 法学部 助手 和田 宗久
研究成果概要
 本研究は、金融機関の取締役等の民事責任のあり方に関して、従来のわが国の判例の分析、アメリカを中心とする比較法的分析を行っているものである。
 本研究における問題意識は、近年、金融機関の取締役に対して、その経営責任を善管注意義務(商法254条3項、民法644条)違反に基づく対会社責任(商法266条1項5項)を追及するという形で問うケースにおいて、実際に善管注意義務違反を認定し、被告取締役に対して損害賠償責任を課しているケースがその他のケースと比較して数多く見られていることに端を発する。その上で、金融機関の取締役に対して善管注意義務違反のみを責任原因とした多くの有責認定判決が下されているのは、①有責認定判決を下されている取締役のほとんどが「破綻した」金融機関の取締役であり、彼らには金融機関を破綻させてしまった責任、言い換えれば「破綻」責任とでもいうべき責任を実質的に課されているのはないか、②金融機関が破綻した場合、当該金融機関は特別な破綻処理法制の下に置かれ、多くの場合は、責任追及が当該金融機関や株主によってではなく、当該金融機関の損害賠償請求権を譲り受けた株式会社整理回収機構などの第三者によって行われていることから、金融機関の取締役には、そうした破綻処理法制の下での特別な責任を課されているのではないか 、および③金融機関の取締役が負っている善管注意義務については、近時の学説の中に一般の事業会社の取締役らが負う善管注意義務と比較して高度なものと解すべきと主張するものがあり、裁判所がそうした学説の影響を受け、一般の事業会社における取締役と比較してよりも高い(または厳格な)基準で善管注意義務の有無を判断しているのではないか、といった要因があるのではないかとの仮説を立て、従来のわが国における金融機関、とりわけ銀行の取締役に対する責任追及訴訟の仕組み・実際の判例について分析を行い、また、1980年代の貯蓄貸付組合(Savings and Loan Associations)を中心とする多くの金融機関の破綻を契機にいち早く金融破綻法制の整備に取り組み、また、金融機関の取締役らに対する責任追及事例の集積もみられるアメリカ法の立法、判例、および学説について分析・検討を行っているのが本研究である。現段階では、資料収集を終え、それら分析を行っている最中であり、本年の前半に研究の成果をまとめ、論説として公表する予定である。