表題番号:2003A-811 日付:2005/03/25
研究課題刑事訴訟における訴訟対象の研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 法学部 教授 寺崎 嘉博
研究成果概要
「刑事訴訟法における訴訟対象」というテーマにおいては、1.訴訟対象物とは何か(公訴事実か訴因か)、2.「公訴事実の同一性」をどう理解するか、3.訴因変更と訴訟条件の問題、など様々な課題が山積している。本特定課題(2003A-811)においては、「公訴事実の同一性」の問題に焦点をしぼって、研究した。
 すでに、特定課題研究の申請書にも書いたように、私は、公訴事実=訴因(事実)という理解をしているので、「公訴事実の同一性」とは、まさに訴因事実の同一性を意味する。もっとも、たとえば、田宮説などのように刑訴法256条で公訴事実=訴因と理解すると、刑訴法312条における条文解釈と矛盾することになる。そこで、私の理解では、時系列に着目した観点が導入される。
 つまり、訴因事実は、実体形成の発展に伴って変化するから、起訴時の訴因事実と、一定の実体形成がなされた後の訴因事実とは、当然異なるのである。このように、実体形成の変化によって異なった訴因事実を、同一手続において取り扱うことが訴訟法上可能か否かが、まさしく「公訴事実の同一性」の概念なのである。つまり、訴訟手続を時系列の側面から観察したときに、同一手続内において訴訟対象物として扱うことができるか否かの判断基準が、まさしく「公訴事実の同一性」だと言うことになる。
 以上のような理解を前提にしたうえで、戦後すぐの学説から始まり、今日までの学説の流れを詳細に検討した。さらに、最高裁の判例および、下級審の裁判例を数多く収集したうえで、判例の流れを詳細に追って、判例が示している「公訴事実の同一性」の判断基準、すなわち、「基本的事実の同一性」を前提とした「非両立性基準」が、どのようにして生まれてきたのか、さらに、その真意はどどこにあるのか、今日の「公訴事実の同一性」基準として判例の基準は妥当なものと評価できるか、などを検討した。