表題番号:2003A-628 日付:2005/03/09
研究課題非中心力を考慮した近似的エネルギー表式の改良と一様核物質におけるテンソル相関
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 助教授 鷹野 正利
研究成果概要
 一様核物質のエネルギーを求めるための、近似的エネルギー表式を用いた変分法の改良を行った。
 この変分法では、一核子当たりのエネルギーを変分関数の汎関数でexplicitに表す、近似的エネルギー表式を作成する。そのエネルギー表式を用いて、変分によりEuler-Lagrange方程式を導出し、それらを解く事により十分最小化されたエネルギーを得る事が出来る。
 この変分法は中心力で相互作用するフェルミ粒子系(液体ヘリウム3等)には有効であるが、現実的な一様核物質に適用した場合、2体核力の非中心力成分が不自然な振る舞いをし、変分計算結果は非常に低いエネルギーを与えてしまうとともに、非中心力型分布関数が長距離相関を持ってしまう、という問題が生じていた。これらの原因はエネルギー表式における非中心力(相関)の取り扱いの不十分さにあり、問題を解決するためには近似的エネルギー表式を改良しなければならない。しかしこの改良は非常に困難であるため、従来は現象論的な補正法を採用してきた。それに対し、本研究では第1原理的に、近似的エネルギー表式の改良を行った。特に、核力の非中心力成分に対応する代表的非中心力相関としてテンソル力相関とスピン・軌道力相関がある中で、今回はテンソル力相関が寄与するエネルギー項について、改良を行った。
 一様核物質に対しJastrow型の波動関数を仮定するとハミルトニアンの期待値と近似的エネルギー表式の両者がクラスター展開できるので、各クラスター項を比較する事により、テンソル相関を含む3体クラスター項の寄与が従来のエネルギー表式に不足していた事がわかった。よって、該当するクラスター項を取り入れるような新たなエネルギー項を作成し、従来のエネルギー表式に追加した。ただし、単に3体クラスター項の部分を取り入れるようにエネルギー項を作成すると、それは変分に対して底なしになるので、さらに修正を施した表式を採用した。ここで更なる修正は、より高次のクラスター項を取り入れている事に相当するが、多少の任意性を持ってしまう。今回は、考えられ得る最も簡単な表式を採用した。
 新たに提案した近似的エネルギー表式を用いた変分計算による核物質のエネルギー値は、従来の計算結果より高い値となり、改善がみられた。ただし扱う物質の状態(核子数密度、陽子混在度)によって、数値計算の不安定性が生じた。
 今後の課題は、高次クラスター項を具体的に考察することによりエネルギー表式の任意性を減少させること、数値計算の不安定性の問題を解決する事、さらにスピン・軌道力型相関に対する同様の改良を進める事である。