表題番号:2003A-604 日付:2005/03/25
研究課題感性スペクトル解析装置を用いた脳機能の定量的評価
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 人間科学学術院 教授 野村 忍
研究成果概要
本研究の目的は、武者らの開発した感性スペクトル解析装置(ESA-16)を用いて感情状態などの脳機能を測定することである。対象は、健常学生10名(男子4名、女子6名、平均年齢21.2歳)であり、事前に研究計画について説明し同意を得た。安静条件、リラックスビデオ(やすらぎのハーモニー)鑑賞、後安静期において、ESA-16による脳機能、日本語版POMS、自覚的アンケートを比較検討した。ESA-16は、脳波の位相の相互相関パターンから喜怒哀楽などの感情状態をリアルタイムで定量的に検出する装置である。POMSは、「緊張ー不安」、「抑うつー落ち込み」、「怒りー敵意」、「活気」、「疲労」、「混乱」の6つの気分状態を測定する標準的な心理テストである。その結果、POMSではビデオ鑑賞前後でpaired t-検定を行い、「抑うつー落ち込み」、「疲労」、「混乱」の3尺度において有意な改善効果が認められた。ESA-16では、ビデオ鑑賞前後で4つの感情状態についてウィルコクソン符号順位和検定を行ったが、有意な差は検出し得なかった。自覚的アンケートでは、「リラックスした」、「安らいだ」、「自信が出た」、「眠かった」などが報告された。POMSおよび自覚的アンケートの結果からは、ビデオ鑑賞により気分状態の改善、リラックス効果が認められたが、ESA-16による感情状態の変化は定量的に確認することはできなかった。その理由としては、対象者数の問題、ESA-16の感情尺度の精度の問題、個人差要因などが考えられる。ただし、ケース毎に検討すると自覚的気分状態とESA-16の感情尺度が相関する例も認められ、今後の更なる検討を要する。今回は、主にリラックス状態に焦点をあてた研究を行ったが、今後の研究としては、怒り、悲しみ、喜び、楽しさの4感情状態を惹起するビデオを鑑賞させ、ESA-16と他の生理的指標(心拍変動、皮膚電気反射、唾液中コルチゾール活性など)とPOMSなどの心理的指標による評価を行い、相互の関連性を検討することによりESA-16による定量的脳機能評価尺度を作成し、心身症や失感情症などへの臨床応用を行いたい。