表題番号:2003A-597 日付:2005/03/18
研究課題カハールの介在細胞の系統発生学的考察
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 人間科学学術院 教授 小室 輝昌
研究成果概要

 ヒトを含むほ乳類消化管における蠕動運動のペースメーカーとして、カハールの介在細胞(Interstitial cells of Cajal: ICC)の独立した細胞型としての存在が確立されたが、この細胞の進化学的、系統発生学的位置付けを知る成績は皆無にちかい。そこで本研究では、ICC が脊椎動物中どのような動物群に認められるのか、免疫組織化学的ならびに電子顕微鏡的に検索した。

最初に広く検索することが可能なKit 受容体蛋白の抗体を用いた免疫組織化学染色による観察では、カナヘビ(は虫類)、ウシガエル、アフリカツメガエル(両生類)の消化管とも、ICCの細胞網と認められる構造は観察されなかった。しかし、は虫類、両生類のICCとほ乳類によって得られたKit 受容体抗体との適合性の問題、また Kit は発現しないがICCに相当する細胞がある可能性もあるため、次に、電子顕微鏡観察による、微細構造上の判断基準による検討を試みた。

その結果、アフリカツメガエルの小腸では、筋層間神経叢の位置に相当して、神経節細胞、神経膠細胞、線維芽細胞のいずれにも該当しない細胞が神経節細胞の周辺に観察された。この細胞は細胞質の電子密度が低く、豊富なミトコンドリアを含み、表面細胞膜にはカベオラが認められた。また、発達した細胞突起は互いにギャップ結合で結合し、細胞網を構成するのが観察された。これらの特徴は、マウスやラット等ほ乳類の実験動物で知られているICCの微細構造上の判断基準に合致するものであり、従来広く使用されているKit抗体(ACK2)による免疫組織化学では検出されないものの、アフリカツメガエル小腸筋層間神経叢部にはICCが存在するものと推定した。