表題番号:2003A-581 日付:2005/03/25
研究課題電磁界数値解析による機器最適化設計技術の高度化
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 助教授 若尾 真治
研究成果概要
機器の開発期間やコストを削減するためには、計算機を用いた最適化設計法の適用が極めて有効であると考えられるが、その普及率はいまだに期待の域には達していない。その主な理由の一つとして、実用的観点から判断したときの最適解の品質にまだ多くの問題点が残されていることが挙げられる。例えば、現場が抱えている複雑な非線形問題に対して反復計算を基本とする最適化設計法を適用した場合、計算精度を実用十分なレベルに保持しようとすれば、工学的に許容できる計算時間の範囲内で最適解を得ることが困難となる場合が多い。さらに、計算によって得られた情報を基に設計者が最終的な設計パラメータを決定する際、従来の最適化設計法では単一の最適解が示されるのみで、各設計変数が評価関数値に及ぼす影響なども不明確である場合が多く、設計者にとって十分な情報が得られているかは疑問の余地が残る。このような背景のもと、先に述べた難点に対する一つの解決策として、本研究では電気機器の最適化設計問題を対象に応答曲面近似法(RSM: Response Surface Methodology)の導入・実用化を試みた。RSMを導入する最大の利点の一つは、最適化計算の高速化である。RSMを導入すれば、最適化の反復計算過程で必要となる評価関数値を、設計変数の多項式表現による近似式(応答曲面)から算出することが可能となる。したがって、最適化計算の反復過程に費やす計算時間を大幅に削減することが可能である。さらに、評価関数が設計変数を用いた応答曲面近似式で表現されるので、設計空間における評価関数値の応答傾向を容易に把握することができ、設計者にとって有用な情報を多く得ることができる。
一般に電気機器の最適化設計の特性として、設計変数の個数が多く、またそれぞれの設計空間(設計変数の変域)が広大であることが多い。また、特に回転機の場合、磁性材料の強い非線形現象を伴う。これらの結果、高精度な応答曲面近似式を導出することは極めて困難なものとなる。したがって、RSMを導入して最適化計算の高速化を図るにあたり、いかに低い計算コストで高精度な応答曲面近似式を算出するかが最も重要な点となる。従来、少ない回数の有限要素解析で高精度な近似式を算出する目的で、直交表を用いる実験計画法(DOE)を導入する報告があるが、多くの場合、設計変数が少なく、また低次の多項式で十分に評価関数を近似できるような簡単な問題に限られている。しかし、先に述べた特徴を有する回転機最適化設計では、近似式に高次の多項式を導入する必要がある。さらに、直交表を用いてDOEを行う際に、多変数、多水準において交互作用を考慮する必要があり、直交表への割り付けに多くの手間を要する。この難点を打開するために、本研究では計算機支援のDOEを開発した。また、より高精度な応答曲面近似式を算出する目的で、まず全体の設計空間で応答曲面の概形を得ておき、その情報をもとに最適解候補点周囲の領域に設計空間を段階的に狭めて、近似精度を向上させていく手法を提案した。提案手法の妥当性・有効性を確認するために、電気機器の最適化設計の一例として次世代鉄道車両駆動用電動機として注目されているアウターロータ型永久磁石同期電動機を取り上げ、低い計算コストで十分な精度の応答曲面近似式が作成可能であることを確認すると同時に、RSMを導入しない場合と比較して、十分な最適化計算の高速化を達成しつつ、同等以上の最適解が得られることを実証した。さらに、回転機の多目的最適化問題に対しても提案手法を展開し、実機レベルの最適化設計に本手法が十分有効であることを示した。