表題番号:2003A-568 日付:2005/03/19
研究課題高分子凝集抑制剤を使用した難溶性塩の超微粒子生成プロセスの確立
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 教授 平沢  泉
研究成果概要
ナノ結晶の用途開発が進展しつつあり、希望の品質を有するナノ結晶を効率的に生産することが求められる。そのための一つの戦略として、高分子電解質の存在下で、反応晶析を行う手法を提案している。ここでは、硫酸鉛の反応晶析系を対象に、結晶の生成過程を動的に追跡し、特に塩基性ポリマーであるポリエチレンイミン(PEI)と鉛イオンの相互作用や、高分子による生成結晶の保護作用が、単分散ナノ結晶の創製に寄与することを、核化、成長挙動に基づいて検討した。ダブルジェット半回分反応晶析実験装置を用いて、PEIの存在下に、硫酸鉛の反応晶析を行った。
 PEIの存在下、反応晶析をした過程での鉛イオンの濃度変化は、ある時間まで若干の上昇傾向を示すが、その後、急速に濃度低下していた。この濃度が低下する時間は、目視における核化の待ち時間とほぼ一致していた。一方、PEIを添加しない場合は、反応原料を供給した時点から、濃度低下することを見いだした。このことから、鉛イオンは、溶液中に自由に存在するのではなく、PEIの表面に弱い結合で保持され、このことが核化を大幅に遅延させていることが考えられた。鉛イオンが、PEIのイミン基に錯体結合していることは、NMRスペクトルの結果により示唆された。このように、PEIを反応晶析過程で存在させることにより、見かけ上、準安定域の幅を大幅に広げ、このことが大量の瞬時の核化につながり、ナノ結晶の創製に寄与したと考える。また、イミン基のサイトでの核化、成長が、ナノ結晶同士の凝集を抑制していることも示唆された。PEIの添加量 (W) が一定の条件下では、濃度が急激に低下する点(屈曲点と呼ぶ)は、供給流量、供給原料の濃度、過剰に添加した鉛モル数によらず、核発生までに装置内に存在する鉛の総モル数(Ntot) は、ほぼ一定の値となった。このように、Ntotは、PEIの添加量でほぼ一義的に決まり、屈曲点、つまり核発生数は、PEIの添加量で制御できることになる。