表題番号:2003A-565 日付:2005/04/01
研究課題全身協調により安全に人間追従が可能な人間共存ロボットの設計に関する研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 教授 菅野 重樹
研究成果概要
 ロボットアームの柔軟性は,受動柔軟性として機能する被覆と関節,能動柔軟性として機能する制御である.本研究では,安全に人間に追従できる人間共存ロボットアームの実現を目指し,能動柔軟性と受動柔軟性とを統合した設計論を導出することを目的とした.
 まず,分類した三つの柔軟要素を,被覆には理想的な弾性要素と粘性要素を並列に配置したフォークトモデルを,関節には負荷側と駆動側の慣性を考慮した2慣性系モデルを,制御には軸のねじれ検出を利用した位置制御ベースの能動インピーダンス法を採用してモデル化した.このモデルを用いて,被覆の厚さとその粘弾性パラメータ,関節の機械ばねストロークとその粘弾性パラメータ,関節駆動モータのロータ慣性と位置制御・インピーダンス制御の制御パラメータを基に,MATLABによる設計シミュレーションを行った.
 被覆・関節系: 高応答性が要求される衝突では,高い衝撃吸収性が期待できる被覆・関節系の柔軟性の統合について検討した.評価基準には,自動車の衝突安全評価指標として広く利用されている頭部傷害基準(HIC: Head Injury Criteria)を採用した.衝撃吸収時における粘弾性素材の底付きは撃力増大を招くが,粘弾性被覆を厚くすることも難しい.そこで,HICと粘弾性被覆の厚さを考慮に入れた被覆設計のための衝突シミュレーションを行った.
 関節・制御系: 追従に関する評価基準として,接触安定性と周波数特性に着目した.接触安定性については,接触系ループゲインである関節の機械ばね定数・位置制御ゲイン・仮想コンプライアンスを小さく抑え,周波数特性に関しては,関節に機械的な粘弾性を付加することで柔軟性を発揮できる周波数帯域の調整を可能とした.
 衝突シミュレーションの結果,人間共存ロボットアームの重量配分の範囲では,関節の柔軟性はHIC評価の下では衝突安全に貢献できず,被覆のみの独立した設計が可能であることが示された.また,人間の頭部がロボットアーム前腕中心に衝突する状況を想定し被覆設計を行った結果,薄くてかつ底付きを容認しないという条件から,比較的高いヤング率が要求されることを明らかにした.関節・制御系設計のための外力追従シミュレーションでは,関節機能と制御の効果的な融合により,アクチュエータおよび関節機械ばねの設計を容易にでき,小型・軽量化設計に寄与することを明らかにした.