表題番号:2003A-564 日付:2005/03/04
研究課題ナノバイオミメティックスによる新規高機能血液浄化膜の創製
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 教授 酒井 清孝
研究成果概要
血液が材料と接触すると血漿蛋白質の吸着が起こり,この蛋白質吸着層を介して血液凝固反応などの生体反応が誘起される.そのため生体適合性向上には蛋白質吸着を減じることが重要である.生体適合性向上に対する試みの多くは,材料表面の平滑化および親水性向上に終始しているが,本研究では,原子間力顕微鏡(AFM)を用いることによりナノレベルで材料表面の粒子構造と生体適合性の関係を解明することで,生体に優しい表面を有する血液浄化膜の創製を目指す.
高分子透析膜素材の一つである疎水性のポリスルホン(PS)に対して,親水化剤であるポリビニルピロリドン(PVP)を配合してフィルムを作製した.PVPの配合量(0 - 67%),PVP分子量(10k ミ 360kDa)を変化させることでフィルム表面のPVP粒子形状,分布,絶対量を変化させた.各々のフィルムに関して,AFMにより表面構造を観察し,抗血栓性の指標となる接触角,蛋白質吸着量,AFMを用いた分子レベルの吸着力マッピングの結果と比較することで,表面の粒子構造と抗血栓性の関係を検討した.表面構造観察の結果,PVP配合量が増加するにつれ表面粗さが増し,PVP粒子数,径ともに増加した.接触角の測定では,PVP分子量によらずPVP配合量1-5 %で親水性が高くなった.血小板吸着量に関してもPVP配合量1-5 %で大きく低下した.一方,フィブリノーゲン吸着量に関しては,PVP配合量が増加するにつれ低下した.吸着力マッピングでは,PVP配合量1 %以上で吸着力の小さくなる領域が観察された.以上より,PVP粒子は配合量1 %以上で表面に一様に分布し,疎水部である表面のPSの露出を防ぐことで,蛋白質の吸着が阻止できることを見出した.
今後は,PVPがg線照射により凝集する影響を検討するために,照射線量を変えたPSフィルムで同様の評価を進める.