表題番号:2003A-562 日付:2005/03/26
研究課題中等度好熱性最近を利用した微生物脱硫と高性能脱硫細菌の創製
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 教授 桐村 光太郎
研究成果概要
 石油等の化石燃料には有機硫黄化合物が含まれており、その燃焼によって発生する硫黄酸化物は大気汚染や酸性雨の原因物質となる。このため、日本や欧米では石油(とくにディーゼル燃料となる軽油)中の硫黄含有量については法的規制が強化される方向にあり、2004年には50 ppm-S以下、2007年には15 ppm-S以下への段階的移行が予定されている。軽油中には現行の石油精製工程では除去が困難な有機硫黄化合物が存在し、その代表的なものがジベンゾチオフェン(以下DBT)およびそのアルキル誘導体である。そこで、著者はDBTを唯一の硫黄源として利用可能な新規な好熱性脱硫細菌Bacillus subtilis WU-S2BやMycobacterium phlei WU-F1を単離し、それぞれの増殖菌体と休止菌体が実際の軽油に対して脱硫活性を示すことを確認した。さらに、WU-F1を生体触媒として利用したバイオ脱硫によって、2007年度に予定されている硫黄分規制値15 ppm-S未満を達成している(昨年度の成果も参照)。以上の成果より、B. subtilis WU-S2BとM. phlei WU-F1の優秀性が明らかになったため、当該菌株を宿主とした高機能脱硫細菌の創製を目的としたDBT脱硫遺伝子の解析と宿主ーベクター系の開発について検討した。B. subtilis WU-S2BとM. phlei WU-F1のDBT脱硫に関与する遺伝子オペロンbdsABCをクローニングし塩基配列を決定したところ、異属であるにもかかわらず両者の遺伝子は同一であった。しかし、常温性細菌のDBT脱硫遺伝子とは61%の相同性しか示さず既知の遺伝子との相同性は極めて低いこと、遺伝子系統樹の作成からbdsABCが新規な遺伝子であることが明らかになった。一方、bdsABCを異種の宿主細胞としての大腸菌内で高発現させることにも成功し、高温域を含む30-50度の広範な温度条件下においてDBTおよびDBTアルキル誘導体の効率的な脱硫が可能なことを確認した。すなわち、耐熱性の新規な脱硫遺伝子資源として bdsABCが有用であることを明らかにした。さらに、新規なシャトルベクターを構築して M. phlei WU-F1にbdsABCを導入し遺伝子コピー数を増大させることによって、DBT脱硫比活性を原株の約2倍に増大させることに成功した。