表題番号:2003A-557 日付:2005/03/31
研究課題水表面単分子膜の構造化学-偏光変調赤外および和周波発生分光法による研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 教授 伊藤 紘一
研究成果概要
(1)抗生物質と細胞膜モデルとの相互作用に関する構造化学的研究
和周波発生(SFG)分光法を用いて抗生物質の1つであるpolymyxin B(PMB)と細菌の細胞膜との相互作用を構造化学的に明らかにするために、水表面に展開したdipalmitoylphosphatidylglycerol(DPPG)やdipalmitoylphosphatidylcholine(DPPC)とPMBとの混合単分子膜について、そのSFGスペクトルと表面圧-分子占有面積(π-A)等温線の測定・解析を進めた。その結果、(i) マイナス電荷をもつDPPG単分子膜はプラス電荷をもつPMBと強く結合し混合比PMB/ DPPG=1/5のときに最も安定な膜を形成すること、(ii) zwitter ion型の親水性側鎖をもつDPPC単分子膜にPMBは結合しないこと、(iii) DPPGの脂肪酸側鎖はPMBとの相互作用によってall-trans構造からgauche型を含む不規則構造に変化すること、などが明らかになった。これらの結果は、PMBが細胞膜の規則構造を破壊して、細胞膜の透過性を増大することが抗生物質の作用の要因の一つであることを示している。
(2)コレステロール(Chol)とリン脂質膜との相互作用に関する研究
 水表面に展開したChol/DPPC混合単分子膜のSFGスペクトルとπ-A等温線の測定・解析結果をもとに、Chol-リン脂質間の相互作用が細胞膜の構造を如何に規定するかをあきらかにするべく研究を進めている。これまでに各膜圧でのSFGスペクトルとπ-A等温線の同時測定結果をもとに(i) 単分子膜は混合比Chol/ DPPC=ca. 6/4においてもっとも安定な膜構造を形成すること、(ii) Chol-DPPCの特異的相互作用によりDPPC膜中の脂肪酸側鎖の構造規則性 (all-trans構造の増加)と配向規則性が増加すること、などを明らかにした