表題番号:2003A-538 日付:2005/11/17
研究課題国語科におけるメディア・リテラシーの授業に関する研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 教育・総合科学学術院 教授 町田 守弘
研究成果概要
 パーソナル・コンピュータと携帯電話の普及によって、子どもたちをめぐるメディア環境は大きく変わりつつある。教師は時代の流れを敏感に受け止めつつ、子どもたちの「いま、ここ」を的確に把握しなければならない。そのうえで、常に効果的な教育内容と方法を模索する必要がある。
 ところでこのところ、メディア・リテラシーの問題に言及した研究や実践が目立つようになった。国語教育関連の著書や論文の中に、メディア・リテラシーに言及したものが増えつつある。子どもたちを取り巻くメディアの世界がますます広がる様相を呈する中で、メディアとことばとの関係に着目しつつ、メディア・リテラシーを育てる国語教育の可能性を追求することが重要な課題となっている。
 今回の研究では、メディア・リテラシーを扱うに際して、学習者に身近なサブカルチャーに注目し、その教材化による国語科の授業構想を検討するという方向を重視した。国語教育が常に「いま、ここ」を生きる子どもたちと直接関わるものである以上、歴史研究とともに実態調査を重視しなければならない。そこで今回の研究において、修士課程二年の院生を中心とした調査チームを編成して、「高校生のコミュニケーション及びサブカルチャーに関する意識調査」を実施することにした。携帯電話というコミュニケーション・ツールが普及して、すべての高校生が例外なく所持しているという状況の中で、コミュニケーションのあり方に何らかの変容がもたらされているのではないかと考えられる。実態調査の第一の目的は、高校生のコミュニケーションのあり方を明らかにするという点にある。特に彼らがことばとどのように関わっているのかという問題は、国語科担当者としては興味の尽きない問題であった。なお、子どものコミュニケーション意識に関わる先行研究として、田近洵一編著『子どものコミュニケーション意識』(学文社、2002.3)がある。今回の調査は、この研究成果に多くを学びつつ展開したものである。
 まずはコミュニケーションに関わる調査を実施したうえで、広くサブカルチャーとして括られる身近な素材に対して、高校生がどのような意識を持っているのかという点を調査することを主な目標に据えた。なお今回の調査では、特に漫画と音楽を具体的な素材として取り上げることにした。そこから高校生の実像を垣間見ることができればよいという思いがあった。彼らの現実を可能な限り的確に把握して、その実像に対応した教材開発を目指したいと考えたわけである。ことばのコミュニケーションの実態を探りつつ、サブカルチャーに関する意識を明らかにしたうえで、高校生の身近な場所にことばの「学び」を立ち上げるという国語教育の戦略が、調査の背景にある。
 今回の調査結果に関しては、すでに小冊子『高校生のコミュニケーション及びサブカルチャーに関する意識調査報告』(早稲田大学大学院教育学研究科町田守弘研究室、2004.8)にまとめて公にしている。この「調査報告」では、高校生に対する調査結果と現場教師に対する調査結果とに分けて報告した。高校生対象の調査項目は、大きく次の5つに分けることができる。
 ① コミュニケーションの手段  ② メディア  ③ 作文     ④ 漫画     ⑤ 音楽
 ①から③は、高校生のことばによるコミュニケーションの現実を探ることに主眼を置く。④と⑤は高校生が身近な場所で接するサブカルチャーの中から、代表的な漫画と音楽を選んで、それぞれどのように接しているのかを探ることを目標とした。
 今回の調査では、生徒とともに担当する教師の意識をも確認するという意図から、生徒とは別に国語科の教師へのアンケート調査も実施することにした。まず教師の視点から生徒たちの現実をどのように把握しているのかを尋ね、さらに生徒と同じ問いを掲げることによって、教師と生徒との世代間のずれの実態を明らかにするというねらいもあった。回答を寄せてくれたのは、男性教師27名、女性教師21名の合計48名である。回答者の年齢は、20代が3名、30代4名、40代28名、50代以上が13名という内訳だった。
 教師に対する質問項目には、生徒のどのような点が最も問題であると感じているかという内容がある。この問いに対しては、最も多かったのは「学習意欲の低さ」で、次いで「基礎学力の不足」が挙げられた。その他の項目として挙げられたのは、「集中力・根気の欠如」や「好奇心・関心の低さ」「まじめさの欠如」であった。
教師に対する質問事項として、今回特に重視したのは、漫画と歌詞の教材化の実態である。それぞれ、次の三つの選択肢を用意した。
①(副教材も含めて)既に教材として扱ったことがある
②(副教材も含めて)教材として扱ってみたい
③教材として扱う必要はない
 結果は、漫画の場合、①52.1%、②18.8%、③29.2%であった。実際に授業で漫画を扱ったという教師が半数以上、これから扱ってみたいという教師も二割近くということから、教室で漫画を扱うことに対しては教師の側からもそれなりの支持を得ていると見ることができる。
漫画、音楽を取り入れた授業は、ともにメディア・リテラシーに関わりを持つ。上記の報告書および論文「国語科におけるサブカルチャー教材の可能性を探る-高等学校現場へのアンケート調査に即して」(早稲田大学教育学部『学術研究』2005.2)に、研究成果を報告させていただいた。