表題番号:2003A-527 日付:2006/11/16
研究課題表層文化の社会変動への影響力に関する国際比較研究法の開発
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学学術院 助教授 土屋 淳二
研究成果概要
 本研究では,EU統合圏の確立期における現代イタリア社会の文化変動プロセスに照準をむけ,世界システムの制度的構築化が惹起するグローバル化/ローカル化の社会趨勢と文化変容との動態的な相互関係を解析することを基本課題としている.調査研究の主要項目として,[1]戦後イタリアの産業化モデルと文化理論の系譜を学説史的に解読・整理・評価する文献研究,[2]モード産業に孕む企業のグローバル戦略と生産のローカル化体制にみる社会的(EU圏内・外諸国およびイタリア国内)影響に関する産業動向分析,[3]イタリア社会の制度的構造とモード産業全体のマクロ戦略が文化変動および生活様式の変容に及ぼす影響効果に関する社会分析,[4]モード産業を取り巻く企業とマス・メディア,生産者同業組合,所管行政当局,消費者,各種の社会運動団体による相互連関の観点から,現代イタリア文化の消費理念・生産哲学・社会意識を解読する価値分析,[5] ローカル産地と企業活動,商業施設・産業都市・居住環境の複合的重層関係により構築される空間(モードとしての都市)の意味構成メカニズムの記号論的解明,を設定している.
 文化研究に関する国際比較調査の一環としてみた場合,イタリアを事例対象とした社会学的実証研究は先行例がなく,その点で本研究は,たんに国際比較事例の幅を広げるだけでなく,将来の国際共同研究の推進に必要な基盤的知見を提供するものと期待される.とくにモード産業は,他の産業部門と比較して文化的影響を強くもつことが予想されるため,産業部門レベルの戦略と市場-消費動向,産業政策と社会制度にみられるイタリア国の独自性を析出しつつ,国際社会(世界システム)の再編成プロセスと文化変動が孕む諸問題を討究することは,大きな社会学的意義をもつといえる.
 モード産業に関する社会学的研究は,H.BlumerやF.Davisらシカゴ学派シンボリック相互作用論者らのフランスを事例とするファッション研究が知られているが,本研究は,近年の社会構築主義的方法論をメゾ-マクロ分析に応用し,シカゴ学派のミクロ・モデルを理論的に拡張する試みとして位置づけられる.本研究では,現在着手しているイタリアの研究機関との共同研究に基づく調査研究を軸にイタリア文化変動に関する研究を完成させる(共同研究の内容と分担:「イタリアの文化研究と社会学」申請者,「近代化と消費」I.ピッコリ [ミラノ・カトリック大学教授],「都市と文化変動」 L.ボヴォーネ [ミラノ・カトリック大学教授],「グローバリズムと消費」 G.ベケッローニ [フィレンツェ大学教授],「流行理論の展開」 G.ラゴーネ [ナポリ大学教授],「社会的トレンドとライフ・スタイル」 V.コデルッピ [IULM大学教授],「流行とアイデンティティ」 A.M.クルチョ [ローマ第3大学教授],「グローバル・システムとファッション産業」 I.ピッコリ,「流行の社会意識と世代」 M.テッサローロ [パドヴァ大学教授],「マス・メディアとコミュニケーション」 D.セコンドゥルフォ [ヴェローナ大学教授],「ニューメディアと若者文化 」 F.コロンボ [ミラノ・カトリック大学教授] ).この研究は,日本における文化産業の展開モデルを考察する上での理論的基礎を提供するものであり,比較事例調査の事前作業として位置づけられる.