表題番号:2003A-522 日付:2009/04/29
研究課題オキナワ現代文学研究-大城立裕から目取真俊まで
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学学術院 教授 高橋 敏夫
研究成果概要
本年度のオキナワ現代文学研究は、資料収集と考察とを同時にすすめた。これまでに半ば以上集めていた、大城立裕、長堂英吉、東峰夫、知念正真、崎山多美、又吉栄喜、目取真俊、池上永一らの作品の初出および単行本(初版)はほぼ揃えおえた。
考察では特に、9・11およびイラク戦争によって再び関心が高まりつつある「戦争」を中心的なテーマにすえた。
オキナワ現代文学では、ヤマトの「戦後」とは異なるオキナワの「戦後=戦中」を掘り下げる。それは大城の「カクテル・パーティー」から、目取真俊の「水滴」「魂込め」などにいたる作品に顕著といえよう。戦争体験のない世代の作家目取真俊の作品では、沖縄戦が過去のものではなく「いまとここ」に出現する出来事として描かれる。現在のオキナワ(戦後)と、沖縄戦真っ只中のオキナワ(戦中)とが同時に、まったく同等にあらわれる物語空間。そこで出現する沖縄戦は、沖縄戦であるとともに戦後のアメリカ軍が展開する戦争でもある。(以上のような「ふたつの現実」が同時かつ同等にえがかれた物語空間は、文学的方法としては「マジック・リアリズム」を採用している。日本の現代文学において、ラテンアメリカ文学産まれのマジック・リアリズムをとりいれた作家は、差別にきりこんだ中上健次、在日という存在をみすえる梁石日がいる。これに目取真俊を加えるなら、三人の作家はともに、多数派の形成するリアルへ、少数者が強いられるリアルをつきつけたことがはっきりするだろう)。
現在進行中の「新しい戦争」のありかたを考えるうえで重要なのは、戦争との取り組みを放棄して久しいヤマトの現代文学ではなく、「戦後=戦中」という視点をもちつづけてきたオキナワ現代文学である――本研究は以上を中心に考察し、その成果を講義や講演、あるいは座談会での発言に活かした。