表題番号:2003A-521 日付:2005/03/17
研究課題フランスの中世抒情詩の写本についての総合的研究 -南仏のC写本を中心に-
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学学術院 教授 瀬戸 直彦
研究成果概要
  2003-2004年度において、本研究助成によって、オック語によるトルバドゥールの諸写本、とくにC写本における目次と索引と本文の不一致を網羅的に検討することができた。この過程で、C写本を底本として2002年末に刊行した「トルバドゥール詞華集」(大学書林)をもとに、収録作品を具体的に絞ることによって、問題の所在をあきらかできたのではないかと考えている。
  すなわち、聖ヴー(聖顔)伝説である。ペイレ・ダルヴェルニェ(C写本)あるいはアルナウト・カタラン(M写本)の作品とされるDieus verays, a vos mi renで始まる抒情詩が、C写本の本文ではGeneys lo joglars a cuy lo voutz de Lucas donet lo sotlar「ルッカの聖顔がその靴を与えたところのジョングルールであるジェネイス」の作とされている理由である。C写本の編者(写字生)は、この伝説をそのままとって作者とすることに抵抗を感じて(写すもとになったオリジナルではそうあったのであろう)、目次の作者措定に、あらたにペイレ・ダルヴェルニェの名を付加しているのではないか。この仮説を、Cをもとにしたこの作品の新たな校訂を付し、ソルボンヌ大学の研究雑誌に発表した。また2004年3月に広島大学で開催された、中世フランス語の語彙にかんするフランス語によるコロック(研究集会)では、ラテン語のvultusから、volt (vou)という中世フランス語(オック語・オイル語)への変遷を、意味の面も考慮して、伝説の伝播と変容をもとに考察してみた。この発表を含む研究集会での成果は、2005年度中に、広島大学より刊行される予定である。

 なお、本研究課題は、2004-2005年度に採択された科学研究費(基盤研究C-2)「写本テクスト学の構築に向けて―中世フランス抒情詩の諸相」に一部連動するものであり、2005年度9月にボルドー大学で開催される「第8回国際オック語オック文学研究学会」において、トルヴェールの写本を考察の対象に含めた最終的な研究成果は発表する予定である。