表題番号:2003A-510 日付:2005/03/18
研究課題日本語のモーラとシラブルの音声発話と知覚における機能
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 国際教養学術院 助教授 近藤 眞理子
研究成果概要
 本研究は、発話リズムの基本単位が日本語と異なるフランス語を用いて、日本語話者のフランス語発話を分析することにより、日本語話者の発話リズムの基本単位の考察を行ったものである。フランス語はシラブルを基本とした発話リズムを持つ言語であるが、日本語話者のフランス語フレーズの時間制御を分析することで、日本語話者の発話リズムはモーラとシラブルのどちらを基本単位としているかを検証した。
 本研究の実験では、日本語話者、フランス語話者、各5名ずつを被験者とし、シラブル数が同じであるが、理論上日本語話者が母音の長さが異なる(短母音=1モーラ、長母音=2モーラ)と捉える音韻環境にあるフランス語の数対のフレーズ(garcons と gares sont,l’otarie と l’eau tarit,touret と tour est等)を用い、日本語話者のフランス語発話に母音長の差が見られるかを測定し、フランス語話者の発話と比較した。
 実験の結果、フランス語話者の発話では、シラブル数によるフレーズ長に有意な差がみられたが、モーラ数による影響は見られなかったばかりか、モーラ数が少ないフレーズのほうが長い対も少なくなかった。一方、日本語話者のフランス語発話には、シラブル数の影響は見られなかったが、モーラ数とフレーズ長の関係には有意な差が確認された。つまり、日本語の発話と同様、モーラ数に正比例して、フレーズ長が一定の割合で長くなった。
 これらの結果から、(1)日本語話者は外国語(ここではフランス語)の音を聞いたとき、日本語のリズムの単位(モーラ)を用い、音の連鎖を分析する。(2)日本語話者は、音の認識の基本単位モーラを発話の基本単位とする。(3)日本語話者のフランス語の音声認識において、音韻理論上の分析法すべてが同様に用いられているわけではなく、音素配列に基づいた子音間への母音の挿入は、語末が閉音節など特定の音声環境によっては起こるとは限らない。従って、モーラ数の増加によるフレーズ長増加も起こらない。理由としては、インプットの段階で、モーラを単独で形成できない浮遊子音は、フレーズ長の制御に影響を与えないらしいということが考えられるということが分かった。