表題番号:2003A-508 日付:2007/01/06
研究課題21世紀の憲法の発展と変動
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 大学院法務研究科 教授 戸波 江二
研究成果概要
本研究では、21世紀の憲法変動の動態を憲法規範の面と憲法現実の面から考察した。憲法規範のレベルでは、憲法改正をめぐる諸問題、憲法解釈のあり方、憲法裁判を通じての憲法価値の実現、人権解釈の基礎理論などが主要な課題となり、憲法現実の面では、科学技術と人権、胎児の生命権と人間の尊厳、プライバシー、インターネット、婚姻・家族の変容、犯罪被害者の人権などが新しい憲法問題として挙げられる。この間、以上のテーマに関して研究を深め、論文を公表し、報告・講演を行った。
また、本研究に関連して、戸波が代表を務めるドイツ憲法判例研究会もまた、ドイツ人憲法研究者と二つの共同研究を行った。「憲法裁判の国際的発展Ⅰ」(ドイツ側:シュタルク・ゲッティンゲン大学教授)では、2002年9月早稲田/立命館大学での共同研究に続いて、2004年8月にゲッティンゲン/オスナブリュック大学にて第2回目の共同研究を行い、戸波は、第一回の報告集『憲法裁判の国際的発展』(信山社、2004年)を編集したほか、報告「憲法裁判の発展と日本の違憲審査制の問題点」を発表した(日本文・独文)。また、もう一つの共同研究「21世紀の憲法の発展と変動」(ドイツ側:ヴァール・フライブルグ大学教授)では、第1回共同研究を2004年3月に早稲田大学にて行い、第2回共同研究を2005年9月にフライブルグ大学にて行い。戸波は、二つの共同研究の企画運営に携わったほか、第1回共同研究で、報告「日本の憲法改正の理論と改憲動向」を行った(日本文・独文)。
本研究によってえられた知見は多数あるが、憲法規範の変動については、立憲主義の観念は固定的なものではなく、時代とともに進展していくこと、憲法改正についても、日本国憲法の立憲主義に反する改正は許されないが、その立憲主義を発展させ、人権保障を強化するものは必ずしも否定されないことを論じた。また、日本の違憲審査制の不活性の原因を分析し、憲法学に通じた専門的な審査が必要であることを論じた。人権論においても、伝統的な防御権としての人権のほかに、国家による人権の積極的な保障を要求していくという人権理論(保護義務論)を日本の学説でも考慮すべきであると説いた。
各論では、胎児の生命権や人間の尊厳の保護の必要性、犯罪被害者の人権保障の可能性、教育における国家関与の限界と教育基本法改正の問題点、社会権・生存権の権利性の強化のための解釈論的な試論を提示した。