表題番号:2003A-118 日付:2009/05/05
研究課題原子核質量公式とベータ崩壊の理論的研究とr過程元素合成への応用
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 高等学院 教諭 橘 孝博
研究成果概要
本研究では、ベータ崩壊大局的理論と質量公式による原子核構造の研究、および
それらの応用として、r過程元素合成の研究が計画された。
まず、原子核の高励起状態へのベータ崩壊強度の測定は、ガンマ線スペクトルがバッ
クグラウンドに紛れてしまい、実験からの情報が不足している。そのような原子核に対
して、我々は大局的理論でベータ崩壊強度関数を補完して、ベータ線崩壊熱やガンマ線
崩壊熱を求めてきた。これにより原子力工学の分野の崩壊熱総和計算で、一定の成果を
上げてきた。最近になって、GreenwoodたちはTAGS (Total Gamma-Ray Absorption
Spectroscopy) を用いて、核分裂で生成される多くの原子核の高励起状態と、それら
の状態へのベータ崩壊分岐比を、まだ完全ではないが、得ることに成功した。このよう
にしてTAGSで得られた結果を用いて崩壊熱総和計算をやり直してみると、144Laや
141Csなどの核種が効く領域で、総和計算が我々の推定値を上回ることが分かった。この
原因を探るべくいろいろな分析を加えて研究を進めてきた。これについては、TAGSの
結果の評価をも含めて、現在さらに検討を重ねている。
 質量公式では、我々のこれまでのKUTY公式における偶奇項に、一部改良すべき点
があり,その検討を行った。この偶奇効果は核力のtriplet-even 項によるところが大き
いが、奇奇核でのエネルギー表式をも含めて改良をおこなった。新しい質量公式を定式
化し、proton drip line およびneutron drip lineで囲まれた全核種領域の原子核質量や
各種分離エネルギーなどを表にまとめた。これについては論文として、欧文誌にこれか
ら投稿する予定である。
 r過程元素合成に関しては、S.Goriely氏(ブリュセル自由大学)および理化学研究
所と共同で研究を進めている。2003年8月にはブリュセル自由大学において研究を展
開した。