表題番号:2003A-098 日付:2005/03/25
研究課題企業組織におけるチーム生産とただ乗り問題
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 社会科学部 教授 井上 正
研究成果概要
企業組織内にどのようにチームを構成し、そのメンバーをどのように動機づけるかは、企業にとって重要な課題である。チーム活動においては、普通特定の個人の産出高を観察することは難しいので、チーム内で懸命に働くことへのインセンティブは弱まる。すなわち、「自分の行動に伴う結果すべてに自分が責任を持つわけではないので、自は適切に行動しなくてもよい」という「ただ乗り」問題が発生する。それでは、なぜ企業はチームではなく、個人に報酬を支払わないのだろうか。それは、チームという環境下では、個々人の活動の観察は難しく、一方、報酬の基準を個人的努力の代理変数になるような尺度におくと、非協調的あるいはご都合主義的な行動や言動を招くことがあるからである。すなわち、個人の業績の代理変数に基づいた報酬方式にすると、チームワークが損なわれる可能性があると考えられるからである。
結局、もしチームの産出高に基づいて支払われれば、労働者はただ乗りしてあまり努力せず。一方、もし(可能なら)個人の産出高に基づいて支払われれば、たとえ他の人を助けることがチームの利益になる場合でも、自分自身の貢献度にばかり気を取られてチームメイトを無視し、労働者はチームの産出高をあまり気にしないということになる。
それでは、企業は、どのような場合にチーム制を導入すべきなのだろうか。本研究では、チーム生産によるメリットとデメリットを比較することにより、チーム制を議論した。チームワークの利益とは、一人の労働者がすることと他の労働者がすることとの間に、大きな補完性がある場合であり、チームを活用する際の主なコストは、上述の「ただ乗り効果」を通じた生産性の減退にある。このように考えると、チームの規模というものが重要な問題であるということがわかる。すなわち、大きなチームではコミュニケーション上の問題が生じるし、小さなチームでは十分な情報移転ができない。意思疎通の点からは、チームは小さい方がよいが、大きいチームには取り出し得る大きな情報群があるので、あまりにも小さいチームでは費用がかかりすぎるともいえる。さらに、小さなグループでは労働者は他の労働者が何をしているかが、大きなチームにおけるよりよくわかる。大きいチームになれば、仲間の監視は小さいチームの場合ほど有効ではなくなる。すなわち、どのメンバーが怠けようと、他のメンバーに与える影響は小さいので、怠けている同僚に罰を加えようというインセンティブは減退する。また、チームが大きければ、怠け者を見つけるのが難しくなる。つまり、ただ乗り効果は大きいチームにおいて、より一般的にみられることになる。個々人が関連性のある活動に従事している場合には、ただ乗り効果は低下するし、一方のパートナーが他方のパートナーの仕事ぶりを評価できる場合も、ただ乗り効果は減退すると考えられるのである。