表題番号:2003A-077 日付:2005/05/02
研究課題歴史的建造物の保存・修復に用いる石灰モルタルの基本的性質に関する実験的研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学部 助教授 輿石 直幸
研究成果概要
 20世紀初頭のポルトランドセメントの開発・普及により、消石灰を用いた建築材料の使用量は激減した。ところが近年、歴史的建造物の保存・修復や日本古来の木舞土壁構法への関心の高まりから、レンガや石材の組積用目地充填材あるいは土壁の上塗りに、石灰モルタルや漆喰のニーズが高まっている。しかしながら、これら石灰系建築材料に関する技術資料は整備されていないのが現状である。
 本研究では、当初、国内における既往研究が少ないことから直ちに実験的な検討を行う予定であったが、歴史的建造物の保存活動を行う国際機関(GCI)が膨大な文献データベースを公開していることを発見し、先ずは既往研究の問題点を明らかにすることに計画を変更した。
 GCIや科学技術振興機構のデータベースから、石灰系建築材料に関する研究論文を検索したところ、167件が入手できた。1次分析では、研究目的および研究概要を整理・分類した。更に、2次分析では、原料材料の品質、調合比、養生条件、硬化後の性質等に関する論文44件(英文31件、和文13件)について、文献抄録を作成し、既往研究における問題点の分析を行った。
 歴史的建造物の保存・修復に関する研究では、原材料の生産地や調合比の特定を目的とした化学分析が主流であった。Luxanら(1996)は、既存建造物から採取した試料について化学分析を行い、類似した化学組成を有する修復材料を採用している。青木ら(1999)は、調合比の異なる多種の試験体を作製して各種の力学的性質を測定し、特性間の相関性を究明している。漆喰塗りに関する研究では、西垣(2001)がセピオライトを添加した漆喰の吸放湿特性および強度特性を調べている。石灰系建築材料の硬化後の性質(細孔構造、強度、収縮率、吸放湿特性など)に対しては、石灰原料の品質(純度、煆焼温度、消化方法など)、調合比(石灰/砂比、水/石灰比など)、養生条件(温度、湿度、二酸化炭素濃度など)の影響が大きいと指摘していながら、これらを網羅するデータは整備されていないことが明らかになった。
 現在は試験体の作製方法に関する予備実験を行っており、今後は欠落しているデータを整備していく予定である。