表題番号:2003A-063 日付:2005/11/20
研究課題保険会社の経営破綻と破綻処理の方法
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 商学部 助教授 李 洪茂
研究成果概要
 保険会社が破たんした場合は、保険契約者にも負担が求められる。この保険契約者の負担は、主として責任準備金の削減と予定利率の引き下げであるが、予定利率変更の影響は非常に大きいものであった。保険会社破たん時に、こうした負担を保険契約者に求める根拠は、保険契約者には健全な保険会社を選択できる自由が与えられているということである。保険会社の健全性を判断する指標として、保険業法によって、ソルベンシー・マージン比率が開示されているからである。しかし、破たん保険会社のソルベンシー・マージン比率は急激に変化し保険会社の経営の健全性を長期にわたって予測することが困難であった。また、保険会社が破たんした場合に債務超過額が発生することを防ぐためにも、ソルベンシー・マージン比率による早期是正措置が実施されたが、実際に破たんした保険会社は例外なく巨額の債務超過額が発生した。
この巨額の債務超過額は、これまでの保険会社の破たん処理の中で一番大きな問題であった。しかし、この債務超過額は、破たん処理過程において急増していたがその発生仕組みは十分解明されておらず、保険契約者に対するその詳細な説明も行われていない。従って、債務超過額が発生することを防ぐための有効な対策も講じられていない。さらに、救済保険会社、保険契約者、保険契約者保護機構の間に債務超過額の分担基準が明確ではない。その結果、保険契約者が必要以上の負担をしているのではないかという疑念が残り、保険契約者の保険制度に対する不信感を高めている。
このような状況下で、特に行政手続による破たん処理では、予定利率の引き下げと責任準備金の削減によって保険契約者に重い負担を求めながらも、救済保険会社の営業権の買取額も少ない。しかし、保険契約者保護機構は、これらの救済保険会社に巨額の支援金を提供した。また、破たんした生命保険会社は既存の保険会社に合併された例は少なく、生命保険市場には、早期解約控除によって解約が制限される低い予定利率の保険契約を有する救済保険会社と、解約の制限のない高い予定利率の契約を有する破たんしていない保険会社が、破たん処理以前よりも増して激しく競争を展開している問題点が残された。この破たんしていない保険会社は、競争上有利な立場にあるといえる救済保険会社に対する支援金の分担額を負担してきた。これらによる保険契約者保護制度に対する破たんしていない保険会社の不満は大きい。
保険会社が破たんすること自体、保険契約者が想定してこなかったことであり、保険制度は将来の保障を約束するという保険の特殊性から保険会社の破たんを前提とせず整備されてきた。このような保険の効用を維持するためにも、保険会社の破たん処理における問題点は、保険契約者が保険契約を締結する目的は何かを考慮して解決されなければならない。