表題番号:2003A-060 日付:2004/02/15
研究課題ジェンダー教育および研究に多文化主義を導入することについて
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 教育学部 教授 小林 富久子
研究成果概要
 本年度はアメリカの大学のジェンダー研究において多文化主義がいかに取り入れられているかを調査すべく、8月の約2週間、西海岸と中西部の大学を訪問して資料を集めた。西海岸の大学はカリフォルニア大学バークレー校、中西部の大学はミシガン大学アナーバー校である。両校ともアメリカを代表する州立大学で、各々進歩的校風で知られている。
 まず、カリフォルニア大では、ジェンダー研究のメッカであるビアトリス・ベイン研究所を訪ね、その所長やメンバーにインタヴューした。多文化の取り入れに関しては、アジア系、メキシコ系、そしてアフリカ系ときわめて多文化的な学生および教員スタッフの構成を反映して、当然、さまざまな人種やエスニシティの個別性を重視したジェンダー教育を実践しているとのことであった。とりわけ全米でも高い評価を誇るエスニック研究学部との連携のもと、アジア系女性作家、アフリカ系のセクシュアリティ研究などの多様なテーマの授業がジェンダー関係のプログラムに取り入れているとのことであった。
 一方のミシガン大学は、丁度本年度に有名なdiversity(多様性)裁判が行われ、判決が下されたとのことで、この話題で持ちきりであった。その内容を説明すると、まず、発端は、ミシガン大の入試に不合格となり、現在テキサス大の学生である複数の女子学生が、その結果を不満とし、自分たちが白人種であるがゆえに、黒人をはじめとする少数民族の受験生に有利なアファーマティヴアクション的入学者選抜により不当に不合格にされたとの訴えを起したことに始まる。その後、ブッシュ大統領自らがアファーマティヴアクションを憲法違反とみなすといった声明を出すなど、さまざまな側から意見が闘わされたが、結局、裁判の判決は、大学当局に対してそれまでの入学選抜法を改めるようにとのことであった。これに対して大学側は、今後は明白なアファーマティヴアクション的選抜方法はとらないが、代わりに受験生にエッセイなどを課することで、学生の出自や出身環境を考慮に入れ、辛うじてそれまで大学側が重視してきた、被抑圧グループ出身の受験生に保護的であり続ける意図を確認し、よって大学内の多様性を引き続き守るという立場を鮮明にしたのである。ここに至るまでの裁判関係の資料や記録は膨大なもので、今後それらを調査することで、アメリカにおける多文化主義教育の実態ーーすなわち、その限界、矛盾、そして当然利点などをさらに詳しく調査したいと考えている。また、当然、この裁判がジェンダー教育といかなる関係を取り結ぶかも調査・分析したい。