表題番号:2003A-033 日付:2004/03/30
研究課題カント哲学における「実践理性」成立史の研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学部 専任講師 御子柴 善之
研究成果概要
カントの「実践理性」観念の成立史を研究するために、本年度、まずは最新の文献を購入
・準備した上で、『実践理性批判』で言及される「純粋理性の事実」の意味するところを
探求した。この「事実」への言明は、「事実問題」ではなく「権利問題」を扱うことを標
榜するカントの超越論哲学の挫折を意味するという指摘もあるが、むしろ、この「事実」
への言及にこそ「有限な理性的存在者」としての人間の自己意識の遂行論的な作用中心が
表現されているのではないか。このような問題意識から、「事実」を論じた代表的ないく
つかの論文を検討した。その中では、一時期隆盛を見せた行為論的カント解釈に対してそ
れを否定し、理性的主体としての人間の自己理解に立脚して議論を展開する、K・コンハ
ルトの論文「理性の事実?」から多くの示唆を得ることができた。この研究を完成させる
には、さらにヴィラシェクの著作とオニールの論考を精査すること、さらには『道徳形而
上学の基礎づけ』(1785年)と『純粋理性批判』第二版(1787年)の再検討が必要になる
だろう。2004年は、カント没後200年の年である。多くの論文集・著作の計画が発表されて
いるが、その中には『実践理性批判』のコメンタールも含まれている。今後、それらを入
手し検討することによって、この研究を完成に導きたい。