表題番号:2003A-020 日付:2004/03/25
研究課題オーストラリア先住民演劇の日本における受容
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 法学部 助教授 澤田 敬司
研究成果概要
 オーストラリア先住民演劇の90年代の代表作ジェーン・ハリソン作『ストールン』、ウェスリー・イノック&デボラ・メイルマン『嘆きの七段階』は、私の翻訳により、2001年に劇団楽天団によって日本語上演され、翌年には、東京国際芸術祭において、両作の再演と、オリジナル版であるメルボルンの劇団プレイボックスによる『ストールン』との競演が実現した。日本はその近代化と共に、海外の戯曲を翻訳して上演する「翻訳劇」というジャンルが存在している。当然、アボリジニ戯曲の日本語上演も、「翻訳劇」の系譜の上にあるものだが、先住民演劇が翻訳劇のかたちで上演されるとき、我々は翻訳劇、ひいては日本の近代演劇に存在していた様々な問題と直面させられることとなった。例えばそれは、先住民演劇の政治性を再現することの困難さ、先住民演劇の中に何か普遍的なものがあるという前提そのものが、文化的差異を覆い隠してしまう危険性などである。しかし一方で、これらアボリジニ戯曲の日本上演は、価値あるもののもたらした。例えばそれは、演劇と政治性の結びつきについて、日本の観客に強く意識させたこと、さらに、日本人、アボリジニ、さらには日本の先住民であるアイヌとの間で、現代的芸術を通した「対話」が生まれたことである。この成果はさらに、2003年のAncient Futureオーストラリア芸術祭で日本上演されたアボリジニ戯曲「アップ・ザ・ラダー」における、日本の演劇人、アボリジニの演劇人、アイヌのパフォーマーのコラボレーションにおいても、より明らかに見て取ることが出来た。