表題番号:2003A-015 日付:2005/11/17
研究課題地域経済統合の法的検討-EU法の発展と日本の課題-
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 法学部 教授 須網 隆夫
研究成果概要
 地域経済統合、特に自由貿易協定を利用した地域経済協力の進展は、東アジアにおいても顕著である。法的観点からの議論は、これまで必ずしも多くなかった。最近、日本でも東アジア共同体に関する議論が開始されているが、なお法的な検討は不十分であることに変化はない。しかし、NAFTAの締結に際してアメリカでは主権論争があったように、FTAは本来きわめて法的な現象である。そして、東アジアの多くの国がWTOに既に加盟し、その司法化された紛争解決手続きを利用していることが示すように、この地域においても法化の傾向は顕著である。東アジア地域の諸国間で締結されたFTAの中に、法的に整備された紛争解決制度を備えるものもみられるようになっていることもそれを示唆している。それでは、地域経済統合を法化させる程度は、どのように考えるべきであろうか。東アジア地域は、これまでソフトな法制度化が進められてきた地域であり、法制度化には馴染まない地域であるとの意見は少なくない。しかし、既にWTOに加盟し、WTOの司法化された紛争解決手続きを受け入れている以上、東アジアにおいても、WTOと同レベルの法制度化、具体的には司法化された紛争解決手続きを地域統合においても実現することは容易であるはずである。但し、この場合、WTOとFTA両者の紛争解決手続きがリンクしていないために、両者において異なる解釈が発展する可能性があり、両者の整合性に対する配慮が求められることになる。この点では、EUが締結しているFTAが参考になり、両者において一貫した法解釈が発展することを担保するために必要な幾つかの方法を示している。
 そもそも、EUにおける地域統合の進展を検討すれば、法制度を利用した統合が、政治的合意の制度化に止まらず、法制度内部のダイナミクスが、統合自体の推進力を生み出す可能性のあることが理解できる。その意味で、統合に果す法の役割を軽視することはできない。