表題番号:2003A-014 日付:2004/10/27
研究課題解雇規制を中心とする雇用保証法制と立法的検証
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 法学部 教授 島田 陽一
研究成果概要
本年度は,本年7月の労基法改正によって制定された解雇の一般的規制規定,一定の解雇手続きに関連する規定,有期労働契約法制の改正および裁量労働制の改正の検討を中心として検討を行った。そして,とくに裁量労働制に関連して注目され,立法的検討の開始されたホワイトカラーの労働時間制度全般にわたる考察も行った。以下,これらの課題に関する成果の概要を示す。
第一に,解雇法制については,解雇権濫用法理の立法化ということにこだわるあまり,労基法に挿入された条文は,やや明晰性にかけるが,従来解雇法理が判例法理に委ねられていたことに比べると大きな意義があったと評価できる。今回の解雇に関連する諸規定の司法的効果については,学説が分かれているが,できる限り強い私法的効力を認めていくことが妥当との結論を得た。
第二に,有期労働契約法制については,もっとも紛争の多い雇止めの問題について私法的な強行規定を設けることが見送られた点が問題であり,適切な立法論を今後展開する必要がある。第三に,裁量労働制に改正については,今回は比較的部分的な改正ではあるが,手続きの煩雑さを簡略しようとするあまり,例えば,「労使委員会」委員の選出手続きについて,従業員全員からの信認を受ける手続きを廃止するなどの問題点もあった。しかし,裁量労働制をめぐる問題で最も重要なことは,今後のホワイトカラー労働者の労働時間管理問題をどのように構想するかである。ホワイトカラー労働者の労働は,従来の人事管理のように,実労働時間によって,その業績を図ろうとすることは適当ではない。しかし,ホワイトカラー労働者の裁量性といっても,仕事量の裁量と仕事手順の裁量性に区別することができるのであり,仕事量の裁量性を欠くホワイトカラー労働者について,アメリカのエグゼンプションのように労働時間法制を全く適用除外するのは妥当ではない。これらの労働者は,自己の仕事の完成のために,限界を超えた長時間労働を行う可能性が高いからである。ホワイトカラー労働者について,実労働時間管理とは異なる,適切な時間管理または業績評価システムを提示することが今後の重要な課題である。