表題番号:2003A-004 日付:2004/11/23
研究課題プルーストにおける「忘却」と「無意思的記憶」の結合過程
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 政治経済学部 教授 徳田 陽彦
研究成果概要
マルセル・プルーストの小説『失われた時を求めて』の第6巻『消え去ったアルベルチーヌ』は、この小説の最終部分に結論が導き出されたテーマ「忘却」が中心的テーマである。それは、アルベルチーヌの死後以降、話者の忘却にまつわる内的経験を3段階にわけて展開された、きわめて構造化されたテーマといえよう。プルーストは、このテーマを執筆当初から構築したわけではない。作家が第1巻の『スワン家のほうへ』を1913年出版したあと、個人的な契機をへて発見したテーマである。筆者はそれは、秘書アゴスティネリの死後半年ばかりたった、14年10月に書いた作家の書簡から見出せると考えている。それ以前のプルーストの著作、草稿帖には、「忘却」という形容はあるものの、感触的なイメージのつよい一般的なものであった。第6巻にみられる「自我の死」はやはり14年秋にみずからの内部の動きを観察して発見した。プルーストはそれを19年に発表した第2巻『花咲く乙女たちのかげに』を、12年の構想とはまったく異なる形で物語のなかに導入した。したがってこの巻の物語は、一貫性を欠くようになってしまった。すなわち、12年の構想(具体的には14年6月のグラッセ校正刷に表現されている)では重要な役割を担っていなかったジルベルトが、主人公の恋人となり、やがて失恋して、唐突な形で、彼女にたいする「忘却」がはじまる。それは、アルベルチーヌ創造に伴い、旧構想のバルベック滞在をこの段階に移行したから起因する、いささか無理な物語の流れから、逆流するような形で忘却のテーマが導入されているといわねばなるまい。今回はこの第2巻の後半部分を中心に「忘却」のテーマを具体的な表現をつうじて検討し、「プルースト国際シンポジウウム」で発表し、またそれを学部の紀要にフランス語で発表した。