表題番号:2002C-105 日付:2004/05/07
研究課題人工聴覚による声の高さの弁別能力の検査・訓練のためのCAIシステム
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 人間科学部 教授 比企 静雄
(連携研究者) 人間総合研究センター 助手 河合 恒
(連携研究者) 語学教育研究所 教授 楊 立明
(連携研究者) 上海医科大学 教授 Wang, Zhenmin
(連携研究者) 香港中文大学医学部 教授 Tong, Michael
(連携研究者) 国立台湾大学医学部 教授 Hsu, Chuanjen
研究成果概要
人工聴覚(Cochlear implant)は,内耳の感覚細胞が働かない場合に,音声波を電気信号に変換して,内耳に埋め込んだ電極を通して聴覚神経に伝える方式である.近年はアジア諸国にも急速に普及しているが,アジアの言語では,日本語の単語アクセントや中国語の声調のように,声の高さの変化が特別な役割をもっている.そこで,それぞれの使用者の声の高さの弁別能力を精密に検査して,これを最大限に活用できるように有効な訓練をする必要がある.このために,合成音声を刺激に利用し,CAI (Computer Assisted Instruction) の機能を組み込んだシステムを開発した.
 このCAIシステムは,教師用のパーソナルコンピュータに,被験者用のスピーカとタッチスクリンを接続しており,ソフトウエアは,刺激の作成,刺激の割り当て表の編集,刺激の提示と応答,次の最適な刺激の選択の段階から構成されている.
 刺激としては,弁別するべき元の自然音声サンプルの対の音響分析的な特徴を内挿または外挿して,対立の程度を任意に調節した合成音声サンプルを,分析-合成プログラム(ATRで開発されたSTRAIGHT)を使って作成しておく.
 訓練の過程では,声の高さの変化の違いを把握する手がかりとして,その音波の波形やピッチパタンを,聴覚的な刺激の提示と同時に,ディスプレイ画面で視覚的に確かめることもできる.被験者の応答は,口頭や筆記に加えて,とくに幼児では,タッチスクリンに表示された候補となるピッチパタンか絵か文字を,指差すこともできる.
これらの被験者の応答の履歴を解析して,次の刺激として応答の難しさの程度が最適な音声サンプルを,自動的に選び出す.これによって,精確な測定結果を得るまで,あるいは意図した訓練の目標へ到達するまでの,刺激の提示の回数が最少になるようにしてある. このようなCAIシステムを有効に利用するならば,現行の人工聴覚の性能でも,必要とする声の高さの弁別能力を獲得できるものと期待している.