表題番号:2002B-033 日付:2004/03/17
研究課題古代における土器製作技術の研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 本庄高等学院 教諭 佐々木 幹雄
(連携研究者) 本庄高等学院 教諭 齋藤 正憲
(連携研究者) 本庄高等学院 教諭 上野 幸彦
研究成果概要
 「古代における土器製作技術の研究」と題した本研究では、当該テーマに関する民族調査並びに土器焼成実験を中心に研究を進めてきた。以下、それぞれの進捗状況を報告し、かつ研究の総括を行なう。
<民族調査>
 民族調査については、2002年8月に齋藤がエジプト、ダクラ・オアシスでの聞き取り調査を実施した。同オアシスでは、陶工10名からなる集約的な工房が営まれ、昇焔式窯による焼成が行なわれていた。土器焼成を実見し、かつ焼成温度を測定できたことは極めて有益であった。また聞き取り調査の結果、ダクラ・オアシスでの土器生産は季節的なものであることも確認された。この成果は早稲田大学エジプト学会が刊行する『エジプト学研究』第11号にて報告を行なった(齋藤他 2003)。
 2003年8月には、佐々木と齋藤がエジプト、シーワ・オアシスで同様の民族調査を実施した。ダクラ・オアシスとは対照的に、シーワ・オアシスでは、女性による家内生産として土器が製作される。轆轤や回転台を用いることなく、手捏ねで作り出される土器は、野焼きにより焼成される。世界各地に残された民族例を紐解くまでもなく、胎土、成形技法、焼成方法、生産形態の全ての点においてシーワ・オアシスの土器つくりは単純なものであり、土器製作技術の源流を探る上で不可欠な情報を取得できたものと考えたい。同調査については『エジプト学研究』第12号にて成果を報告する予定である(齋藤他 2004)。
 2002年10月には佐々木と齋藤が九州(唐津・有田)への比較調査へ出かけた。同地では日韓陶土器の交流という視点から古代の出土土器とともに、16世紀後半の資料を観察する機会に恵まれた。16世紀後半の資料からは韓国陶磁器の影響を直接的に受けつつ、有田焼(伊万里焼)が成立する状況が確認された。
 2004年3月には佐々木による韓国・済州島での民族調査も計画されている。同地では叩き技法により、無釉で焼締の土器の製作されており、古代東アジアにおける日常雑記としての土器製作技術の一旦を垣間みることができるであろう。
<土器焼成実験>
 佐々木は、須恵器焼成実験を整理し、特にこれまでの成果を整理することに力を注いだ。特にその成果については、釜山市立博物館のシンポジウムに招かれ、発表を行なった(佐々木 2003a)。
 齋藤はエジプト新王国時代の試料について、再焼成実験を行ない、焼成温度の確定につとめた。古代エジプトでは、ナイル・シルトとマール・クレイという2種の粘土を用いて土器をつくっているが、再焼成実験の結果、ナイル・シルトでは900℃、マール・クレイでは1100℃前後という焼成温度を得た。既往研究でも両胎土の焼成温度は異なることが推測されており、それを追証する形になったが、一方で、具体的な焼成温度域については見解にばらつきがあり、本研究の成果が一定の方向性を示したことは確実である。この成果については、第8回西アジア考古学会で発表し(齋藤 2003a)、かつ同学会機関誌上に掲載される予定である(齋藤 2004)。
<シンポジウムの開催>
 また、上述の成果を報告し、さらには世界的な視座に立ち評価していくために、土器製作技術ついての研究を進めている内外の研究者を招き、2003年11月22日、早稲田大学にてシンポジウム『世界の土器つくり-土器製作技術の民族考古学、実験考古学-』を開催した。
 佐々木ならびに齋藤が報告を行なった(佐々木 2003b, 2003b)ほか、以下のような研究発表が行なわれた。
  寺崎秀一郎(早稲田大学)<ホンジュラス>
   「南東マヤ地域における土器製作に関する民族考古学的研究の現状」
  小澤正人(成城大学)<中国>
   「中国先史時代の土器製作技術」
  余語琢磨(自治医科大学)<インドネシア>
   「バリ島の土器つくり―諸生産地にみる技法の多様性を読み解く―」
  小磯学(東海大学)<インド>
   「インド北部の土器つくり」
  常木晃(筑波大学)<シリア>
   「現代シリアの土器工房」
  (本シンポジウムの成果については、体裁を整えて正式な報告書を刊行する予定である。)
<総括>
 古代の土器製作技術の解明を意図し、特にアジアとアフリカ(エジプト)との比較研究を目標に掲げた本研究は一定の成果を挙げたものと確信する。佐々木の実験研究のノウハウを齋藤がエジプトの試料に応用することは一定の成果を挙げた。民族調査では、エジプトにおける民族誌的情報の着実な蓄積を行なうことができたとともに、韓国・済州島での成果も大いに期待されるところである。また特に、東アジアを専門とする佐々木がエジプトの民族調査に携わったことは、より広い視野に立つ土器製作技術の復原という形で今後結実するものと考える。さらには、世界の土器つくりに関するシンポジウムを開催できたことは、本研究の成果をより客観的に位置づけようとするとき、大きな意義を持つであろう。
 一方で、今後の課題が多く確認されたことも、重要な成果である。民族調査では更なる情報の蓄積につとめるべきことが再認識された。また、そこで観察された様々な技術を実験により科学的に評価していく作業が求められる。さらには、北部九州における陶磁器生産の受容という新たな研究テーマも見いだすことができた。民族調査で得られた資料についての、実験的・科学的分析と併せて、今後の課題である。