表題番号:2002B-018 日付:2004/03/31
研究課題半導体ミスフィット転位網を利用した量子孔の電子論
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学部 教授 武田 京三郎
研究成果概要
代表的なヘテロ系として知られているGaSb/GaAs系を例にとり二つの視点から研究を遂行した。一つ目の視点として電子構造理論を用いた原子構造や電子状態等の微視的考察を行った(1)。二つ目の視点として、連続媒体近似に基づいて対象系の自由エネルギーの定式化を試み、様々な系への適用を行うことにより本系の巨視的描像を考察した(2)。これら二つの視点からの考察を融合し、ヘテロ成長に関する統合的理解へとつなげることを試みた。
まず、第一原理電子構造計算と経験的原子間ポテンシャルによりGaSb/GaAs(001)ミスフィット転位(MD)の原子構造及び電子構造を明らかとした。その結果、<1-10>,<110>に周期的な5&7員環構造の転位芯構造を有する転位が形成され、交差部はこれらの重なり合わせの原子構造となっていることが明らかとなった。また、この転位構造の電子状態はエネルギーギャップ中に幾つかの転位に起因する準位(<1-10>では非占有準位、<110>では占有準位)を有している。これらの準位の分散は転位線方向にのみ大きな分散を持っているため、転位線を利用した量子細線の可能性を示唆していると考えられる。
次に、ヘテロ成長の体系的な巨視的描像を得るために、MDを考慮に入れた自由エネルギーの定式化を行った。その結果、自由エネルギーは表面エネルギーと歪みエネルギーと転位エネルギーの和により定式化が可能となった。この定式化では転位形成エネルギーやネットワーク形成エネルギーといった現象論的パラメータを導入したが、これらのパラメータの値を微視的な考察により得られた全エネルギーから求めることにより、MDとヘテロ成長との関係について微視的な視点との融合を試みた。その結果、成長モードの決定に転位形成エネルギーが重要な役割を果たしており、転位形成エネルギーを決定しているミクロな転位芯構造も成長モードの決定に大きく寄与していることが示唆された。