表題番号:2002B-012 日付:2004/03/24
研究課題クロマチンを介した細胞メモリーの分子機構
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 教育学部 教授 東中川 徹
研究成果概要
ゲノムプロジェクトの大要が終焉を迎え、遺伝子研究の主流は、エピジェネティックな遺伝子発現機構の研究へとシフトした。エピジェネティクスの諸相において、遺伝子がネットワークを形成して作用していることを反映して、タンパク質複合体の分離と同定が刻々と報告されている。我々は、このような観点からこの10年来ポリコーム遺伝子群( PcG と略す)に着目し、in vivo機能解析を進めてきた。 近年の盛んな研究にも拘わらず不明な点が多い。
以下に我々の研究の成果を3つに分けて記述する。
(1) 我々はマウスPcGタンパク質M33の細胞内動態について新しい知見を得た。マウス肝臓では、M33は定常状態では細胞質に局在しており 、肝 再生によりリン酸化を受け、かつ核に移行する。肝再生が終了するとふたたび細胞質へ移行するというダイナミック・シャトリングを示す ことが判明した。
(2) ゼブラフィッシュよりPcGホモログを7種クローン化し構造を決定した。このうち3種について実験を進めた。pc1とpsc1の産物は試験管内
において他種の相互作用のパターンと同様の挙動を示した。ph2については、発現解析に続きMorpholinoアンチセンスオリゴ(MO) による
遺伝子ノックダウンにより、体節形成に重要な役割を果たしていることを示した。
(3) メダカにおいて5種のPcGホモログを分離した。そのひとつ oleedについて、ノックダウン実験により単眼奇形(cyclopia)の誘発を認め
た。また、oleedとPcG複合体を形成していると考えられるolezのMOによっても、その複合体が持つと考えられる脱アセチル化酵素の Trichostatin Aによる阻害実験においても同様の奇形が生じた。 OleedがPcG複合体を介して作用していることを強く示唆する。PcG複合 体がHedgehog シグナリングに関与しているという知見も得た。