表題番号:2002A-883 日付:2003/05/09
研究課題ナレッジ・マネジメントの視座に立つ学校を基盤としたカリキュラム開発のモデル構築
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 人間科学部 助教授 浅田 匡
研究成果概要
本研究は、公立小学校における事前研究会-研究授業-事後研究会を校内研究ととらえ、事前および事後研究会における教師により表出された経験的知識を会話分析により明らかにすることを目的とした。分析の視点として、それぞれの教師が持つ経験知が、研究授業の観察という共通の体験により表出され、新たな指導法あるいはカリキュラムなど教育実践に関する知識創造が行なわれるかという知識変換という視点を用いた。その結果、教師から表出される知識は、研究授業の内容に依存するものの、多くは指導法および教材という1時間の研究授業に焦点化され、カリキュラムなどに言及されることは少ないことが明らかになった。年間を通して実施される校内研究には継続性がなく、むしろ各研究授業で完結する傾向が強いということである。
また、教師同士の会話のつながりを見てみると、研究授業に依拠した発話に対しては、同じレベルでの応答がなされており、研究授業という具体的な事実から抽象化された知識への変換が十分にはなされていないことも明らかになった。それは、具体的な知識を抽象的な知識(授業内容に依存しない形式の知識)へと転換する、いわゆるナレッジ・マネージャーの存在の欠如が一因として考えられた。校内研究では、いわゆる研究部と称される教師がその役割を果たすことになると考えられるが、必ずしも機能していないことも明らかになった。あるいは、教師自身による経験知の表出が難しいということも考えられる。暗黙知といわれる臨床の知あるいは実践知という知識の表現の難しさである。
したがって、校内研究が学校を基盤としたカリキュラム開発の重要な場であるにもかかわらず、必ずしも現状では十分に機能していないということ、それは、ナレッジ・マネージャーという役割の存在が欠如していることが明らかになった。同時に、暗黙知をいかに記述するのか、あるいは表出するのかが課題である。これについては、image-based approachによる予備的研究を行ない、暗黙知の表現可能性は示唆された。