表題番号:2002A-877 日付:2003/12/18
研究課題種類株式に関する研究-種類株式の利用と紛争解決の法理-
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 社会科学部 教授 川島 いづみ
研究成果概要
平成13年・14年の商法改正により、株式に関する規制が著しく緩和され、株式の種類や株式に付される権利の内容も大幅に自由度の高いものに変わった。これを機に、一部では、種類株式や新株予約権を利用した企業買収防衛策が議論されている。経営者が株式制度を濫用して株主の利益を侵害したり、株主間の紛争が増加することも懸念される。これまで株式について事前規制型の法制をとってきたわが国では、このような自由化によって生ずるであろう紛争について、解決の基準が正面から問題とされたことはほとんどなく、学説による研究も進んでいない。
 他方、従来から自由度の高い株式制度をとる英米、ことに米国では、判例上、企業買収に関連して、紛争解決のための基準が形成されている。米国では、1980年代以降企業買収が活況を呈し、経営者が様々な買収防衛策を案出するようになった。dual class stock plan、フリップ・オーバー型やフリップ・イン型のポイズンピルなどである。これらについて、デラウェア州を中心とする判例法をみると、まず、裁判所は一般に、議決権に直接関連する買収防衛策には否定的である(証券取引所の上場規則も、dual class stock planの新規採用を禁止している)。第二に、取締役会が買収対抗措置を採用する場合、Unocal基準によって、取締役会には、通常の経営判断原則におけるよりも高いレベルの立証責任が課され、さらに当該対抗措置が株主の議決権の効力を妨げることを主たる目的とする場合には、Blasius基準により、そのような行為をとることもやむを得ないとされる正当化事由の立証という、さらに重い責任が課され、立証できないときは信認義務違反と判断される。
 わが国でも、例えば、強制転換条項を利用した買収防衛規定を設ける定款変更決議については、内容の如何により、商法の基本的な考え方や株主平等原則に違反するか否かを問うことで、決議の無効確認訴訟が提起できるであろうし、強制転換の発動を取締役会で決定するなら、米国の判例法理を参考に基準作りをすることで、取締役の忠実義務違反が問題にできると考えられる。