表題番号:2002A-811 日付:2003/03/26
研究課題判断と意思決定の社会心理学的研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 第一文学部 教授 竹村 和久
研究成果概要
 我々の判断と意思決定は、状況依存的であると考えられる。たとえば、同じ意思決定問題であっても、その言語的表現の仕方によって判断結果や意思決定結果が変わってしまうフレーミング効果は状況依存性の典型的な例である。また、感情などの内的状態や意思決定問題の複雑性に応じて意思決定結果が変わってしまうような現象も状況依存性としてとらえることができる。このような判断と意思決定の状況依存性をどのようにとらえることができるのか、また、どのような数理的表現、どのような計量的モデルで把握できるのかを本研究では検討した。
 この判断と意思決定の状況依存性は、実務的あるいは政策的インプリケーションを持っている。たとえば、消費者の判断と意思決定が状況依存的であると、マーケティングの価格政策や経済政策が失敗することがある。また、リスクコミュニケーション政策においても、市民の判断の状況依存性が、同様の理由により既存の効用分析や価値分析の結果を無効にすることがある。さらには、税制などの施行や金融政策などにおいても、状況に依存してなされる市民の判断や意思決定のために、経済学的予測が間違ったり、無効になったりすることがある。これらの社会的環境における状況依存性を、単にバイアスであるとか誤差であるとみるのではなく、系統的な心理傾向を持っていると考えることによって、判断や意思決定現象の理解がより有効になると期待することができる。
 本研究では、判断と意思決定の状況依存性を、さまざまレベルの判断や意思決定現象にわたって、種々の心理実験を通じて解明し、さらに、この状況依存性を理論的観点から説明し、予測可能な心理計量モデルとその数理モデルの作成をすることを主目的とし、その検討を行った。さらに、本研究では、状況依存性を持つデータを解析する方法論の検討をした。判断と意思決定の状況依存性は、その時間的変動や共時的振幅を考慮すると、曖昧性を含む判断や意思決定とみなすことができる。このような観点から、本研究では、心理データ解析のための方法論も幾分開発している。