表題番号:2002A-801 日付:2003/12/01
研究課題「拒否権プレーヤー論」の理論研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 政治経済学部 教授 真柄 秀子
研究成果概要
福祉や経済など重要分野の改革は,なぜある国々で実施され他の国々では現できないのか。本研究は,新制度論のなかで近年重要性を増している「拒否権プレイヤー」論をめぐる主要研究を整理することで,今後の理論的検討や実証分析に資することを目的として行われた。この分野では,「拒否点」や「拒否権プレイヤー」を生み出す政治制度が改革の成否を決定する主要因であると考えられる。「拒否点」,「拒否権プレイヤー」とは何か。それらに直面した政府はどのように行動するのか。本研究は主要研究のレヴューを通じて,これらを明らかにしている。
 政策転換の成否を政治要因に焦点を当てて解明しようとする試みは,おもに二つのアプローチに分類することができるだろう。第一のアプローチは政党を最重要アクターとして捉えるものであり,第二のアプローチはアクターを取り巻く制度こそが決定的であると考えるものである。「拒否権プレイヤー」論は後者に属する議論である。新制度論の立場をとる研究者達は,政治制度,すなわち大統領制が議会制か,いかなる選挙制度か,連邦制か否か,一院制が二院制か,などといった政治システムの憲法上の構造が政策転換の可能性を決定する主要因であると考える。本プロジェクトでは,このアプローチの中核を構成している拒否権プレイヤー論について,理論的背景,理論内容とロジック,そして関連する実証分析を概観し,その意義と課題を検討した。
 具体的には,(1)欧州各国の医療改革の成功と失敗を「拒否点(veto points)」という新しい概念によって説明したインマーガットの議論,(2)インマーガットの枠組みを前提に憲法構造と改革可能性の仮説を提示したヒューバーらの枠組み,(3)経済学的モデルを使ってこれらの議論を精緻化させたツェベリスの「拒否権プレイヤー」論,という三つの主要理論を検討した。次いで,最近の「拒否権プレイヤー」論をめぐる注目すべき実証研究――ボノーリの年金改革研究,バーチフィールドらの所得再分配研究,ハーラーバーグらの金融政策研究,フランツェーゼの財政赤字研究,ギャレットらのEU意思決定過程研究――をレヴューし,この理論の現実政治への適用可能性を探った。
研究成果は,眞柄秀子「拒否権プレイヤーと政策決定」新川敏光・井戸正伸・眞柄秀子・宮本太郎『比較政治経済学』有斐閣(2004年3月刊行予定)として公表される。