表題番号:2002A-590 日付:2004/02/27
研究課題人や職業を示す女性名詞(女性形)の使用の増加についての研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 語学教育研究所 教授 岡村 三郎
研究成果概要
ドイツ語圏スイスでは、男性名詞によって男女両性を示すいわゆる「総称男性名詞」を撤廃しようという動きがドイツより強く、人や職業を示す女性名詞の公の使用がより進んでいる。ここでは、スイスにおけるこのような変化を、Waedenswilという町における住民投票という具体的な事例を通して研究した。この町では1993年に、これまでの総称男性名詞を撤廃するのみならず、さらに進んで総称形として女性名詞を市の規約に導入しようとして、市議会ではそれが可決されたが、住民投票では拒否された。これまでの私の研究では、総称女性名詞が市民の支持を得られなかった主な心理的な理由は「今度は男性が差別されてしまう」という意識だったことが明らかになってきている。
論文1では、この住民投票では結局、(男性形または女性形に関わらず)総称形をとるか、それとも並列形をとるかが問われたという点に注目し、住民投票とほぼ同時期に進んでいたスイス連邦参事会における「(男性と女性の)言語的に平等な取り扱いを実行する」という並列形を支持する議論が、Waedenswilの住民投票で総称女性名詞(generisches Femininum)が拒否される重要な要素の一つになった点を指摘した。
2003年には現地で調査を行い、Waedenswil市議会で総称女性名詞が議決された過程を、当時の委員会および市議会の議事録によって詳細に跡づけ、総称女性名詞はフェミニストのイニシアチヴによって成立したとはいえないことを指摘した。むしろ、立法、行政に携わる議員および市参事会側が実際の使用が煩瑣になる並列形を実務的な面から好まず、総称形を使いたがり、女性側への好意的なジェスチャーとして総称女性名詞を選んだという経緯がこれにより明らかになった。しかし市当局の説明不足もあり、マスコミや市民は総称女性名詞を、総称形を守るための妥協の産物だとは受け取らず、フェミニズムの勝利だと理解し、最終的に住民投票で否決されてしまうことになった。これらの研究成果は論文2で公表される。