表題番号:2002A-567
日付:2004/02/19
研究課題有限温度下における量子系のダイナミクス
研究者所属(当時) | 資格 | 氏名 | |
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(代表者) | 理工学部 | 助手 | 湯浅 一哉 |
- 研究成果概要
- 通常,緩和過程というと,指数関数的緩和が観測されるが,不安定量子状態の崩壊過程を
詳細に調べると,それは単純な指数関数則には従っていないことが明らかになる.こうし
た議論は,これまで主にゼロ温度の問題設定下で詳細に行われてきたが,本研究課題で
は,有限温度下をはじめとする様々な状況・問題設定で量子系の時間発展に関わる諸問題
を議論することを目的としてきた.具体的に取り組んだ研究テーマとその成果は,以下の
通りである.
1. 量子散逸過程における指数関数的振舞いを手際よく抽出する手法であるvan Hove極
限,及び,それを拡張した「確率極限」に関する研究を行った.特に,従来,弱い散逸が
その適用対象であった確率極限を「強結合系」に適用する枠組みへと拡張し,その手法に
基づいて,強結合下における散逸過程において緩和定数の温度依存性に対する「分岐現
象」を発見した.
2. 上述の非指数関数的振舞いの興味深い帰結として,「量子ゼノン効果」が知られてい
る.これは,繰り返し行われる観測下において量子系の時間発展が抑制される効果である
が,その検証実験としてウィーンのRauchのグループが計画中の中性子スピンを用いた実
験を議論し,現実には避けがたい「エラーが量子ゼノン効果に及ぼす影響」を評価すると
ともに,検証実験としての可能性を明らかにした.
3. 量子ゼノン効果の場合と同様にして観測を繰り返すことで量子系を混合状態から純粋
状態へと導く「量子状態純化」の新しい機構を発見した.その量子情報分野への応用を目
指して「エンタングル状態」の純化,量子ビットの「初期化」の手法としての応用の可能
性を示すとともに,その手法の様々なエラーに対する安定性を議論した.