表題番号:2002A-563 日付:2005/02/15
研究課題シリコンナノ構造配列を用いた微小電子減の開発
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学部 助手 谷井 孝至
研究成果概要
「シリコンナノ構造配列を用いた微小電子源の作製」

 先鋭なシリコンナノ構造配列は、フラットパネルディスプレイやマルチ電子線リソグラフィ用の微小電子源として期待されている。その理由は、
①材料としてシリコンを用いることにより、従来の微細加工を利用した高密度配列形成が可能なこと、
②微小電子源と同一基板上に制御用の集積回路を組み込めること、
③ナノスケールで先鋭な構造や低い仕事関数が、他の材料と比較して、電界放出に有利であること、
などである。
 我々は、独自に発見したアルカリ溶液中でのイオン照射減速エッチング現象を利用して、鋭い先端を有するシリコンのナノピラミッド配列を自己整合的に一括で作製する技術を開発し、微小電子源配列への応用を推進してきた。本研究の成果を以下にまとめる。

(1) TMAHを用いた3極管構造の作製
TMAH中におけるイオン照射減速エッチング現象を用いて、シリコンナノテーブル配列を作製し、この形状を有効に利用して引出し電極を有するシリコン微小電子源を完成した。プロセスは、以下のステップから構成される。
①イオン注入を用いて、Si(100)表面に配列状にイオン照射損傷を導入する。
②損傷領域をマスクとして、TMAH中でシリコン減速エッチング現象を利用して、ナノテーブル配列を作製する。
③熱酸化により、テーブルの先鋭化と引出し電極下の絶縁膜(熱酸化膜)を成長させる。
④引出し電極として、ニオブを堆積する。
⑤フッ酸を用いて、テーブル部分を選択的にリフトオフし、3極管構造を作製する。
このプロセスは、マスク合わせを全く用いずに、自己整合的に引出し電極を有する3極管構造を作製でき、作製された微小電子源は現在最小のものである。引出し電極と、尖鋭な電子源を近接できることから、低閾値電圧での電子放出を期待できる。加えて、イオン注入がピラミッド先端の電気伝導型制御とナノテーブル構造作製の両方の役割を果たし、熱酸化がテーブルの先鋭化、ドーパントイオンの活性化および絶縁層堆積を兼ねるため、従来のプロセスよりプロセスステップ数を大幅に削減することが可能である。加えて、プロセス全体にわたって、ドライエッチングではなくウェットエッチングのみを採用していることから、ウェハスケールかつ低コストで製造できる点に特長がある。

(2) TMAHを用いた3極管構造からのエミッション評価
(1)で作製した3極管構造を超高真空チェンバ内にセッティングし、エミッション実験を行った。シリコンウェハ裏面にオーミック電極を作製してエミッタに通電し、ゲート電極にはワイヤーボンディングにより電圧を印加した。コレクタは透明導電性ガラス上に蒸着した蛍光板となっており、エミッションの有無を蛍光スポットとして観察できるようになっている。真空度は5E-7Pa以下で行われた。ゲート電圧に約30Vの電圧を印加したところ、コレクタ電流とともに、蛍光スポットが観察できた。I-V特性は良好な電界放出を示し、10時間以上の長時間にわたってエミッションを持続することができた。

(1)(2)に示すように、本研究を通じて、従来のプロセスより有利なプロセスを開発し、現在報告されている中でも最も微細な微小電子源配列を完成し、低閾値電圧でのエミッションを確認した。