表題番号:2002A-555 日付:2006/11/10
研究課題吸入麻酔薬の体内動態シミュレーションの開発
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学部 専任講師 小堀 深
研究成果概要
 現在、手術現場では患者の脳内麻酔薬濃度を直接測定できるセンサーがないため、麻酔深度は麻酔医の勘と経験に頼っている。そこで、コンピュータ上で脳内麻酔薬濃度や各臓器内麻酔薬濃度をシミュレーションすることができれば、麻酔医への大きな情報提供や体内動態の理論的理解に寄与できると考えた。
 はじめに、麻酔薬の体内動態を計算するために、コンパートメントモデルを作成した。本研究でのモデルのポイントとしては、体内での血流を正確に再現し、肺をガス交換に関与する部分と関与しない部分に分け、麻酔器において開鎖、半閉鎖、閉鎖を再現することができる点である。また、各コンパートメントに物質収支式を適用した。一方、臨床データとして吸気ガス流量、呼気ガス流量、吸気ガス濃度、呼気ガス濃度(end-tidal)を採取し、シミュレータでは吸気ガス流量、吸気ガス濃度より呼気ガス濃度(simulation)を算出した。さらにシミュレータで算出した呼気麻酔薬濃度(simulation)と臨床データの呼気麻酔薬濃度(end-tidal)を比較することでコンパートメントモデルと物質収支式の妥当性について検討を行った。
 現在までに、臨床データとして50症例を解析した。これらの解析結果より臨床値とシミュレータ値はほぼ全てにおいて一致した。このことから、今回作製したシミュレータに用いたコンパートメントモデルと物質収支式の妥当性を示すことができた。よって、このシミュレータで算出された脳内の麻酔薬濃度も正確な値であると考えられる。これによって吸気ガス流量と吸気ガス濃度のみから脳内麻酔薬濃度をリアルタイムに表示することが示せた。
 本研究で作成したシミュレータは様々な手術においてシミュレータ値と臨床値の誤差が小さいことからコンパートメントモデルと物質収支式は妥当であることがわかった。よってこのシミュレータによって算出される脳内麻酔薬濃度が術中パラメータとして麻酔医に有用な情報を提供できるといえる。