表題番号:2002A-554 日付:2005/11/20
研究課題マルチスケールの複雑機械システムに関する統一的なモデリングと解析手法の開発
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学部 助教授 吉村 浩明
研究成果概要
柔軟な部材からなる宇宙構造物や分子系などに代表されるマルチボディシステムは,極めて非線形の強い拘束力学系としてモデル化できる.このような複雑機械系の解析には,回路系などで開発されたネットワーク理論とのアナロジーが有効と考えられ,いわゆる内部接続系としてモデル化できるが,一般に,拘束を受ける剛体系に代表される,非ホロノミック拘束を付随する退化ラグランジュ系の取り扱いは非常に困難であり,十分な検討がなされていない.本研究では,このような内部接続系の構造を,ディラック構造と呼ばれる数学的な構造によって表すことができることを示し,様々なスケールの複雑系に応用できることを示すことを目的に研究を遂行した.ディラック構造は,相空間上のシンプレクティック構造やポアソン構造の性質を併せ持つものであり,極めて一般的かつ工学上も重要なものである.本研究では,特に,ラグランジュ系とディラック構造の関係について,変分原理の枠組みとともに明らかにした.以下に,方法と結果の概要を述べる.まず,配位空間上の分布を考え,これから誘導される相空間上のディラック構造を定義し,その上で(退化)ラグランジアンのディラック微分作用素を定義した.これによって接バンドルの余接バンドルから余接バンドルの余接バンドルへのバンドル写像を与え,さらに,ラグランジアンから定義されるルジャンドル変換により,相空間の部分空間を定義することで,この部分空間上の各点で与えられる相空間上のベクトル場と余接バンドルの余接バンドル上にうつされたラグランジアンの微分のペアが相空間上のディラック構造に含まれる条件を考え,これを陰的ラグランジュ系の定義として与えた.次に,拡張された変分原理を導入し,この陰的ラグランジアンを定式化する方法と理論的枠組みを考案した.具体的な応用として,非ホロノミック拘束を受ける力学系,および退化ラグランジアン系を有するホロノミック拘束系であるLC回路を例にとり,陰的ラグランジアン系の有効性を示した.以上により,複雑機械系のための統一的なモデリング手法に必要となる基礎理論を開発することができた.