表題番号:2002A-541 日付:2004/03/02
研究課題強磁性と反強磁性が競合する系の磁性
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学部 教授 角田 頼彦
研究成果概要
 遷移金属の磁性はd電子数とフェルミ面の形状という、異なる2つの要因に支配されている。この2つが異なる性質を安定化しようとするとき、系は複雑な磁気的振る舞いを示すであろう。PtやPdと3d遷移金属の合金はこのような系と考えられる。例えば、FeやMnとの合金では電子数では強磁性、フェルミ面からは反強磁性になろうとするため、FeやMnの濃度や原子秩序の変化によって複雑に磁性が変化する。PtFeやPtMn合金はその強い磁気異方性と高い転移温度から超高密度磁気記録媒体やGMR素子の材料として注目を浴びているが、その微視的な基礎研究は1960年代からほとんど進展がない。本研究はこれらの系の磁性を、「強磁性と反強磁性スピン相関が競合する系」という新しい視点に立ち、最新の実験技術を駆使して研究しなおし、これらの系の磁性の基礎を解明し、磁気応用材の開発に寄与することを目的としている。
 これまでの研究成果
1)PdFeやPtFe無秩序合金はこれまで巨大磁気モーメント系として有名で、単純な強磁性体と考えられていた。しかし中性子散乱で[100]軸上に  磁気衛星反射が観測され反強磁性のスピン相関が共存していることが判明した。(論文1、2)
2)Pt3Fe規則合金は反強磁性ー反強磁性相転移を起こすが、その原因が、あるスピン波のモードが凍結して起こることを見つけた。(論文3)
3)Pt67Fe33合金の磁性は高温での強磁性相から低温の反強磁性に相転移すると考えられていたが、単結晶の中性子散乱の実験から強磁性領域  と反強磁性領域が混在した不均一モデルで説明できることが判明した。(論文4)
4)Pt50Fe50規則合金では低温からキュリー温度まで昇温するにつれて格子歪が増大し、インバー効果で説明出来る。Fe3Pt合金では良く知られ  た現象であるがPt50Fe50ではそのような報告はない。(論文5)
5)Mn3Pt規則合金は1/3のMn原子が磁気モーメントを持たない不思議な磁気構造を示すことで興味深い系であるが、中性子非弾性散乱の結果か  ら、この系は正8面体のコーナーに配置したスピンの反強磁性結合に由来する3次元スピンフラストレーション系であることが判明した。正  8面体配置のスピンフラストレーションはこの研究が始めてである。また、不思議な磁気構造は、このフラストレーションを解消するように  1/3のスピンを動かすことで時間平均を0にし、正3角配置を消滅させた、部分的フラストレーションであることが判明した。(論文6)
6)その他、Pt50Mn50合金でも興味深い結果を得ている。(論文作成中)