表題番号:2002A-538 日付:2004/07/02
研究課題一次相転移点とその近傍に現れる複素比熱と相転移のスローダイナミクス
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学部 教授 千葉 明夫
研究成果概要
周期的に試料を加熱し、温度変化を測定する測定法は動的熱測定法と呼ばれ、特にガラス転移の中の分子運動研究において広く用いられている。入力熱流と温度変化の間に位相のずれがある場合、比熱は複素量に拡張される。この拡張された比熱は複素比熱と呼ばれる。ガラス転移温度域で得られる複素比熱から分子振動の振動周期を知ることができるが、第1種相転移温度域で測定される複素比熱についてはその実体や解釈に検討すべき問題が多く残されている。我々は第1種相転移温度域で測定される複素比熱の実体を解明する為、動的熱測定法と顕微鏡をもちいたその場観察法により、直鎖状のアルカン(C36H74)とポリエチレングリコール(Mw4210)の第1種相転移点とその近傍で複素比熱の測定と試料状態の観察をおこなった。測定を行った温度域はアルカンの固相-回転相転移と融解、ポリエチレングリコールの融解を含む領域である。温度制御を非常に綿密に行った結果、測定を行ったすべての第1種相転移温度域で比熱が複素比熱となることがわかった。特に我々は0.05-0.0003 Hzという非常に低い周波数領域に注目して測定を行った結果、複素比熱の詳細な周波数依存性を得ることに成功した。我々は得られた結果より、数十から数百秒のタイムスケールのスローダイナミクスが関与する相転移機構が存在し、それが複素比熱の原因と考えた。この考えを実証する為に偏光顕微鏡をもちいて試料の様子を観察した。動的熱測定で培った温度制御のノウハウを用い、丁寧な温度制御を行った結果、第1種相転移中の試料では低温で安定な相と高温で安定な相が開放系においても共存することがわかった。顕微鏡観察を行いながら、同時に動的熱測定を行える装置を開発し、共存している相の境界面が温度の変化と共に変動することを明らかにした。また変動周期は複素比熱から得られたスローダイナミクスのタイムスケールとよく一致することがわかった。
本研究により、第1種相転移温度域で共存している相の境界面が数十から数百秒のタイムスケールで変動し、複素比熱として測定されることが明らかになった。また、複素比熱から見積もられる相を変動させる為に必要な熱エネルギーは潜熱として測定されるエネルギー量に近いことも明らかになった。つまり複素比熱として測定される相境界面の変動は相転移に必要な熱エネルギーの多くを必要とする現象である。